【マイルCS回顧】悲願のGⅠ奪取 ナミュールが「壁」を打ち破った決め手とは
京都競馬場を味方につけたナミュール
「能力は間違いなく世代上位」ナミュールの評価は2歳からずっと高かった。阪神JFから秋華賞までGⅠで4、10、3、2着と、徐々に着順をあげていった。3歳夏に高野友和調教師に取材した際も、「春は牝馬らしい面がモロに出てしまい、カイバを思うように食べなかった」と語り、オークス前になってようやく軌道に乗ってきたという感触だった。 【マイルチャンピオンシップ2023 データ分析】差しが6勝も後ろ過ぎると問題あり!? 前走クラス別成績などデータで徹底分析(SPAIA) 年齢とともに強くなったナミュールだったが、今春のGⅠは7、16着。どちらも大きな不利があり、その潜在能力を出せなかった。GⅡ、GⅢでは強い競馬を見せるも、肝心のGⅠでは出遅れや不利など消化不良が続いた。「能力は間違いなく」という言葉は、無冠だからこそ使われる。 ようやくこの壁をぶち破ることができた。外枠から馬群に入らず、不利も受けなかった。なにより京都競馬場が大きかったのではないか。21年デビュー世代はこの春まで京都で走れなかった。2着に敗れた秋華賞も京都ならと思ってしまう。体が小さく、切れる反面、パワーが足りないナミュールにとって、GⅠでの急坂はキツかったのではないか。平坦で、下り坂を利用して楽に加速できる京都はぴったり。富士Sの回顧やマイルCSの展望記事でも、京都は合うと書いた自分は間違っていなかった。人知れずほっとした。
最後まで加速し続ける美しいラップタイム
京都の外回りマイル戦はちょうど中間地点の800mを頂上とする丘が特徴。今回もこの丘が展開と結果に大きく影響したとみる。序盤600m34.3、800m通過46.5で、上りにあたるスタートから600~800mの区間では12.2としっかりペースダウンした。超A級マイラーがそろうレースで46.5は速くはなく、追走にも余裕がある。馬群が一団で進んだため、ナミュールも後方とはいえ、そこまで厳しい位置ではなかった。 なかには上り区間でスピードを抑えきれない馬たちもいた。スピードがあるということは、その分コントロールも難しい。この上りで行きたがってしまうと、下りの4コーナーを勢いよく回ってしまい、外を回り末脚を失くしてしまう。 後半の下りの入りからゴールまでは11.7-11.6-11.5-11.2と最後まで加速していく非常にハイレベルなラップ構成になった。最後に11.2を叩き出したレースを後方一気で差し切ったナミュールは正真正銘のマイル女王といっていい。馬群を縫うような追い上げなど、代打藤岡康太騎手の手腕はお見事。急遽の騎乗のため、細かいことを考えず、シンプルにナミュールのリズムを重視したのもよかった。普段から馬との呼吸を大切に騎乗していた証だろう。 3コーナーに丘がある京都外回りマイルらしく、前後半800m46.5-46.0とバランスがとれたスキのない流れで、安田記念の前後半800m46.0-45.4と比べると、インパクトがないように見えるが、これは東京と京都の違いによるもの。後半600m11.6-11.5-11.2の並びは美しく、これぞ京都のマイルチャンピオンシップだ。最後まで加速し続けなければ勝てない。上がり33.0を記録したナミュールはゴール前200m、どれほどのラップを刻んだのか。これを分析すれば、ナミュールの価値はさらに高まるだろう。