「なぜ私がやらないといけないか」仕事をえり好みした“問題社員”が解雇… 会社を訴え、裁判所に「慰謝料」認められた理由
裁判所の判断
裁判所は「解雇はOKだが、人間関係の切り離しなどは違法」と判断した。以下、順に解説する。 ■ 解雇OK 裁判所が認定したXさんの勤務態度は以下のとおりであった(一部抜粋)。 ・関心のない業務などに積極的に関与しない 他の従業員が仕事の依頼をした際、嫌な顔をして、ため息をついたり、「なぜ私がやらないといけないか」などの質問を繰り返す...etc ・コミュニケーションを通してチームワークを促進できない 他の従業員に対して「前の職場にいた高学歴で調子に乗っている東大卒の新入社員みたいだ。本当に気をつけたほうがいい」と発言...etc ・割り当てられた時間内に効率的かつ迅速に事務処理を行っていない 通常2時間もあれば終わるカタログ印刷に丸1日かけたことがあった...etc 裁判所は「Xさんの勤務成績・態度が不良で改善の見込みがなく、職務能力を欠き他の職務に転換できない状態にあった。指導を受け、オフィスアシスタントに変更した後もXさんの問題点は解消されなかった。解雇を選択したことが相当性を欠くとまではいえない」として解雇OKと判断した。 しかし裁判所は、会社が行った以下の行動は「不法行為」と認定した。 ■ 書籍の移動作業(慰謝料10万円) 裁判所は以下の理由を述べ「Xさんへの配慮を著しく欠き違法だ」と判断した。 ・Xさんにとって書籍の移動作業は肉体的な負担がかかるものだった ・この作業が原因で腰痛症を発症した ・Xさんは作業の軽減を上司に申し出た際、上司は「5階の残りは自分がやる」と答えたものの、その5日後には、より重い本がある中2階の書籍の箱詰め作業を行わせ、Xさんを手伝うようアルバイト従業員に指示しなかった ■ Xさんを差別的に扱い孤立させた(慰謝料30万円) 裁判所は、会社による以下の行為についても「不法行為だ」と判断した。 ・朝の定例会に出席させない ・共有サーバーへのアクセスを遮断 ・勉強会に出席させない 具体的な認定内容は「▼朝の定例会への出席を禁止する必要性はなかった▼従業員の中でXさんだけを共有サーバーにアクセスできなくする必要性が乏しい▼勉強会についても正社員全員に案内されているものであり、Xさんだけの参加を禁止する必要性に乏しい」というもの。 さらにツッコんで、裁判所は「これらの一連の行為は、Xさんだけを社内で孤立させ人間関係から切り離す目的で行われたと認められる」と判断した。
最後に
解雇がOKになるほどの問題社員であったとしても、その社員に対する嫌がらせが当然にOKになるわけではない。ちまたでは【問題社員を解雇したら訴訟沙汰になるので、自ら退職届を出すようチクチクと嫌がらせをする会社】が多いようだが、従業員から訴えられたら慰謝料の支払いを命じられることがある。参考になれば幸いだ。 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡