なぜ軽自動車は選ばれるのか 「軽トラック」がじわじわ広がっている理由
排気量とボディサイズを拡大して進化
軽自動車はこれまで幾度もエンジンの排気量やボディサイズを拡大し、安全性や快適性を向上させていった。その生い立ちをたどれば、「軽自動車はクルマであって、クルマでない」という特別な存在であることが分かる。 地方在住者にとって移動のためにクルマは欠かせず、1人1台のカーライフでは軽自動車が中心となるのは当然だった。 最低限のスペースと実用性を備えていた軽自動車は、4人が広々とくつろげ、荷物もたくさん積めて、燃費もいいクルマになった。常に3人以上で移動するのでなければ、まったく不満を覚えないほど快適である。 よって、こんな便利で経済的な乗り物は他に存在しないのだ。これを「脅威」と受け止めた海外の自動車メーカーは、軽自動車の税制は不平等だと外圧をかけ、軽自動車枠を撤廃するよう政府に働きかけたこともあった。 実際、言い出しっぺの政府(当時の経産省)も、普通車に比べて税収の低い軽自動車は目の上のタンコブでもあったようだ。2014年にはついに軽自動車の税制に大ナタが振るわれる。 2015年から軽自動車税が従来の1.5倍へと大幅に引き上げられたが、それでも年額1万800円(乗用車)という税額は普通車の半額以下だ。維持費用は相変わらず圧倒的に軽自動車の方が安い。 そのため軽自動車でも十分、自分の目的を果たせると知ってしまったユーザーたちは、軽自動車から普通車へシフトすることなく、軽自動車を利用し続けているのである。
ホンダが軽自動車に力を入れた功罪
ホンダもスズキ同様、二輪車から軽自動車を経て普通車まで生産販売するまでに成長したメーカーである。 ホンダは従来、スポーティーなモデルや斬新なRVなど、独自性のある普通車でヒットを飛ばしていた。一方、軽自動車の売り上げは低迷していた。 そもそもT360という軽トラックで4輪メーカーとしてデビューを果たしたこともあり、アクティというホンダならではのミッドシップ構造の軽トラックを販売していた。ところが、オデッセイやステップワゴンといったミニバンなどのRV系に力を入れてヒットを生み出す一方で、軽自動車メーカーとしての存在感は希薄になっていった。 そこでホンダは社運をかけて軽自動車を再解釈し、国民に支持される軽自動車を開発することにしたのである。その結果、生み出されたのが、N-WGN(Nワゴン)であった。 従来の軽自動車ハイトワゴンの常識を超えた品質や乗り味を実現した結果、価格は高いが満足度の高いクルマが出来上がり、多くのユーザーから支持された。しかしながら、凝りに凝った構造と仕様が災いし、高コストとなってしまった。おまけにライバルは他社製軽自動車であったはずが、同じ店舗で販売する普通車からの乗り換えが続出したのである。 初代のN-WGNはホンダに利益をあまりもたらさず、ディーラーにとってもお客さんは増えても収益は上がりにくい構造を招いてしまった。2019年に発売した2代目では、こうした問題点は改善され、販売店もメーカーも潤うモデルとなったようだ。 ともあれホンダの影響もあって、乗用車の新車市場の4割は軽自動車が占める(もちろんスズキ、ダイハツの人気モデルもかなり多い)状況になっているのが、現在の日本の乗用車市場なのである。 一方でトヨタのアルファードやランドクルーザーといった大型乗用車の人気も高く、残価設定やリセール性を見込んだ高額車両と軽自動車の二極化が進んでいる。これはクルマにどれだけお金を使うかというユーザーのカーライフに関する価値観の違いから来るものだ。