2024年「年金財政検証」の重要ポイント、あまりに楽観的な成長見通しで何を狙う?
● 年金収支を5年に1度点検 四つのケースを想定、8月に検証結果 2024年は、100年先まで見通して公的年金財政の持続性を5年に1度点検する財政検証の年にあたり、検証の基礎となる長期のマクロ経済変数に関する想定が、4月12日の厚生労働省の専門委員会に提出された。 【この記事の画像を見る】 検証の結果は8月頃に出される予定で、ここで分析される内容は、全ての国民の老後生活に大きな影響を与える。 検証は、今年2月に内閣府が公表した「60年度までのマクロ経済・財政・社会保障の試算」(長期試算)を活用して、「成長実現ケース」「長期安定ケース」「現状投影ケース」の3ケースを設定。さらに厳しいシナリオとして、「1人当たりゼロ成長ケース」を加え、四つのケースで行われる。 そこで想定されている主要な変数は、図表1に示すとおりだ。これらの中で第2、3のケースが中心的なケースだとされている。 前回の財政検証では六つのケースが示されたが、どれが重要なのかが示されておらず、分かりにくかった。今回は重要なケースを二つに絞ったという点では、分かりやすくなっている。 だが年金の所得代替率や年金財政収支に影響が大きい実質経済成長率の見通しはあまり楽観的だ。
● 実質成長率や賃金上昇率 実質利回りの見通しが重要 想定されている変数のうち、特にどの変数に注目すべきか? そして、その変数はなぜ重要か? 公的年金の見通しに最も大きな影響を与えるのは、実質経済成長率だ。これが高くなると、実質賃金の上昇率や実質利回りが高くなる。以下に述べるように、これらは年金の所得代替率や財政収支を好転させる。 実質賃金上昇率の影響を理解するには、物価上昇率がゼロの世界を想定すると分かりやすい。 賃金上昇率が高いと、保険料収入が多くなる。他方で、前年度までに年金額を裁定された受給者の年金額は変わらない。当年度に裁定される受給者の年金額は増えるが、それは、年金支給総額のごく一部でしかない。 したがって、賃金上昇率が高いほど、年金財政は好転する。 公的年金は巨額の積立金を保有しているので、運用利回りは、収支に大きな影響を与える。他の条件が等しければ、これが高いと積立金の運用収入が増えるので、年金会計の収支は好転する。 ● 物価上昇率はマクロスライドに影響 発動されたのは過去4回だけ 重要な変数の第2は、物価上昇率だ。 物価スライドがあるため、公的年金制度は、物価上昇率の差に関してはおよそ中立的な仕組みになっている。しかし、「マクロ経済スライド」の影響がある。これは、公的年金の被保険者の減少と、平均余命の伸びを勘案した一定率を既裁定年金から減額するものだ。 マクロスライドは、2004年に導入された際には23年で終了するはずだったが、実際に発動されることが少なかったため、基礎年金については、47年まで継続する必要があるとされている。 これが実行されれば、既裁定の年金額が減額されるので平均的な所得代替率が低下する。他方で、年金財政の収支は好転する。 ただし、これは、物価上昇率が高くないと実行できないとされている。04年に導入されたが、これまで15年・19年・20年・23年の4回しか発動されていない。 今回想定されているケースのうち、「現状投影」では物価上昇率が年率0.8%なので、実行できない。「成長実現」「長期安定」であれば実行できる。