100mハードル・田中佑美は「40人中39位」の挑戦者 一度はあきらめかけたパリ五輪、もう後悔はしたくない
【フィニッシュ後、呆然と立ち尽くした】 「正直、もうちょっと(タイムが)出てほしかったなって思いました。ふだんの試合だったら『思ったよりも出ました』と言っていたと思うんですけど、今回は自分に軸があるのではなくて、標準(参加標準記録)に軸があるので、それに至っていないっていう点でタイムが足りない」 12秒85は田中の自己ベストだったが、「出さなくちゃいけない」タイムには届かず、自己記録の喜びよりも、反省点ばかりが口をついて出た。 また準決勝は、第1組が追い風0.8mだったのに対し、田中が走った第2組は風にも恵まれなかった(ほぼ無風だったが向かい風0.3mだった)。翌日の決勝が雨予報だっただけに、是が非でもこのラウンドでマークしておきたかっただろう。 「自分がやってきたことをしっかりと見せていくことが大事」 そう心に決めて、決勝に臨んだ。 五輪がかかった一戦を前に、緊張に押しつぶされそうになった時には、空を見上げて「雨が降っているな」とまったく違うことを考えることで、気を逸らそうと努めた。 そして、決勝では思いきって攻めのレースをすることに決めた。 「全体的に、私に足りないのは爆発力。スタートから3台目まででしっかり加速していかないと、7台目より先も見えてこない。なので、『1台目で絶対に怯まない』っていう気持ちでスタートを切りました」 しかし、やはり緊張はあったのだろう。 「落ち着いてまとめていけば、そういうことは起こらなかったんですけど、全体で2、3台は大きくバランスを崩しました」と、会心の走りとはならなかった。 優勝した福部が即内定を決めた一方で、田中は2着に終わり、記録も12秒89と参加標準に届かなかった。パリ行きが怪しくなり、フィニッシュ後、雨が降りしきるなか、呆然と立ち尽くした。 暗雲が晴れたのは、その2日後のことだ。7月2日に世界陸連のワールドランキングが確定し、パリ五輪の出場資格者が公表され、冒頭のとおり田中は39位にランクインした。
【悔しさでいっぱいだった昨夏の世界選手権】 そしてさらに2日後、正式に日本代表に追加された。 今夏のパリ五輪は、田中にとっては雪辱の舞台でもある。 シニアの日本代表として初めて出場した昨夏のブダペスト世界選手権では、無力感を味わわされた。 「勝負にもならなかったし、国内のレースやほかのヨーロッパの試合でもちゃんと走れてきたのに、大事なタイミングで自分のやりたいことが何ひとつできなかった。悔しさでいっぱいでした。何しに来たんやっていう感じでしたね」 一度はあきらめかけた世界の舞台は、40人中39番目で挑む。今度こそ、最大限のパフォーマンスを見せるつもりだ。
和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi