どうして、「学園でアイドルマスター」なのか? 開発陣にぶっちゃけ聞いてしまう、『学園アイドルマスター』ができるまで
「新しい『アイマス』なんだから、今までの固定観念を壊して新しいものを作ってほしい」 【この記事に関連するほかの画像を見る】 『学園アイドルマスター』の開発中、今作のメインプロデューサーを務める小美野日出文(こみの ひでふみ)氏はこの言葉を何度も投げかけられたらしい。 しかし、小美野氏自身は全く逆の考えだったという。 新しい『アイドルマスター』だからこそ、『アイマス』の良さを残す必要がある。「新入生」とでも言わんばかりの鮮烈なイメージがある一方、『アイマス』として正しいことをできているのかを常に考えながら『学マス』を作り上げてきたらしい。 この事実を知るまで、なんとなく勝手に「『学マス』は相当“新しさ”を意識して作ってるんだろうな」と思っていた。そもそもシリーズ的には6年ぶりの完全新作だし、舞台も学園だし、ビジュアルも、曲も……なんだか全体的に「新しさ」を全面に押し出している感じがした。 『学マス』はきっと、このゲームはこれまでとはまったく違う『アイマス』を目指して作られているのだろう……というのは、私の勝手な勘違いだった。 では、この「新しさ」はどこから来ているのか? その一方で追求した「『アイマス』の良さ」とは、一体なんなのか? そもそも『学園アイドルマスター』は、何をしようとしているのか? そんな根本的な「『学マス』ができるまで」を思いきって開発陣に聞いてみたのが、このインタビューだったりする。 そして今回お話をうかがうのは、バンダイナムコエンターテインメントにて『学マス』のメインプロデューサーを務める小美野氏と、QualiArts側にて開発のディレクターを務める岩本航輝氏のおふたり。 このおふたり、時に仲良く、時に激しく、二人三脚で『学マス』開発に臨んできたという。 そもそもの企画の始まり、『学マス』のコンセプト設計、アイドルの制作秘話、異常に気合の入ったモデルとライブシーンのこだわり、あとあだ名が一瞬「6万ポリゴン」になったらしい小美野氏とか……とにかく『学マス』開発の舞台裏を、たくさんお聞きしてみた。 さらに、以前から話題を呼んでいた「花海咲季、実は当初ラスボスだった」というエピソードも、詳しくお聞きしてみた。この「花海咲季が当初ラスボスだった」という話自体、『学マス』を象徴するエピソードだと感じた。どういうことか、読めばわかる! 『学マス』が気になっている方も、既に初星学園に入学した方も、ぜひ最後まで読んでください! 聞き手・文/ジスマロック 編集/竹中プレジデント 撮影/増田雄介 ■アイドルの立ち絵、一度全ボツ。なんで!? ──個人的な感覚ではあるのですが、『学マス』は立ち絵、3Dモデル、イラストなどアートワークの完成度がとにかく高いと感じています。今作のアートワークにはどういった狙いがあるのでしょう? 岩本氏: 最終的なビジュアルが固まるまで、結構期間がかかりましたよね。 小美野氏: それこそ、アイドルの立ち絵が1回全ボツになってます(笑)。 ──全ボツですか!? 小美野氏: ゲーム開発において、キャラクターの「立ち絵」は初期に作る必要があります。だから、現在のビジュアルが決まる前に、先にアイドルの立ち絵を作っていたんです。 そのため、最終的なビジュアルのトンマナ(コンセプトや雰囲気)を決めた時、「いまのビジュアルの雰囲気と、初期に作った立ち絵が全然合ってなくない?」という話になり、立ち絵をすべて作り直すことになりました。 ──とはいえ、立ち絵をすべて作り直すというのは大きな決断だと思います。 小美野氏: プロデューサーの方々が最初に目にするアイドルの姿は立ち絵になりますから、立ち絵から受ける印象というのはとても重要です。 そこで初期の立ち絵を見せてしまったら、最終的に確定したビジュアルが全部無駄になってしまう。だから、「最終的に決まったビジュアルに合わせるべきだ」と判断しました。加えて、そのタイミングで「ポーズも違う」ということに気づきました。 ──「ポーズの違い」というのは具体的にどういったことなのでしょう? 小美野氏: 初期の立ち絵は、全員しっかり正面を向いている「ザ・立ち絵」として作られていました。立ち絵というものの固定観念にとらわれてしまっていたんです。 でも、自分はどちらかというと「この子にとって、本当にこれがベストなのか?」ということを考えたくて……要するに、全員が同じ方向を向いている立ち絵ではなく、「そのアイドルにとってのベストカット」を立ち絵にするべきだと思いました。 そこから「もうちょっといい角度を」「もうちょっとこの子のこういう所を見せられるポーズにしてほしい」といったように、そのアイドルに合わせた立ち絵を作り上げていきました。 岩本氏: だから、「立ち絵」というよりかは、「その子を最初にアイドルとして売り出す時のベストショット」のイメージになっています。「この子はこんな感じで売り出したい」といった打ち出し方そのものが立ち絵に反映されていますね。 ──『学マス』のビジュアルを拝見した時、個人的にはすごく「新しさ」を感じました。3Dモデルや立ち絵、イラストなどこれまでの『アイマス』の空気感から外しているような印象を受けるのですが、ここはなにか具体的な方針があったりするのでしょうか? 小美野氏: おそらく、QualiArtsさん側は「新しいものを作りたい」という意識で制作されていたと思うのですが……逆に僕はそこまで意識していませんでした。 いろいろな人から言われたんですよ。「新しい『アイマス』なんだから、今までの固定観念を壊して新しいものを作ってほしい」と……。 一同: (笑)。 小美野氏: むしろ、新しいものを作るのって簡単なんです。 なぜなら、「やってないことをやればいい」だけだから。 だけど、『学マス』においては、これまでの「『アイドルマスター』の良さ」を残しつつ、今の時代にアップデートすることが最も重要だと考えていました。 ──新しい『アイマス』を目指したわけでなく、『アイマス』の良さを今の時代に合わせて描いたというわけですね。 小美野氏: はい。だから僕が強く意識していたのは、「『アイドルマスター』の良さ」という木の幹の部分は絶対に外さないようにして、その上に「いかに今のお客様が魅力的に感じてくれる要素をコーティングできるか」ということでした。 どちらかというと制作中も、「新しいことをやるのはいいけど、これはちゃんと『アイマス』として正しいことをやれているのか?」を常に意識していました。 岩本氏: QualiArts側のクリエイティブコンセプトとして使っていた言葉は、「みずみずしさ」でした。だから、「差別化」というより、これまでの『アイドルマスター』の良さを踏襲しつつ、いかに「みずみずしさを特徴として持たせられるか」を意識していました。 一口に「新しさ」と言っても、いろいろと浮かぶワードはあると思うんです。「フレッシュさ」「生命力」……あとは、「古臭くならない」とか。そういった「新しさ」のイメージ全体の言葉のかけ算として、「みずみずしいもの」を作ろうと思っていました。 それがすべてのクリエイティブに反映された結果として、新しく見えているのかもしれません。 小美野氏: アート面に関する一番の功労者は、間違いなくQualiArtsでクリエイティブディレクターを担当されている多田さんですね。多田さんは、岩本さんがアサインされる前から『学マス』に関わられていて、キャラ原案の先生を決める前の段階から一緒に作り上げてきました。 ■花海咲季、実は当初ラスボスだった。私の妹がこんなに主人公なわけがない。 ──公式サイトに掲載されている“小美野さんと伏見つかさ先生のインタビュー”では、花海咲季(主人公的な位置付け)と花海佑芽(ライバル)の立ち位置が当初は逆だったと語られていました。このあたりについて詳しくお伺いできないでしょうか。 小美野氏: そうなんです。実は、当初伏見さんが挙げてくださった案では妹の佑芽が主人公で、姉の咲季がライバルだったんです。つまり、当初は元気で明るい王道アイドルの佑芽が主人公となり、咲季が物語の最後に立ちはだかるラスボスになる予定でした。 ただ、デザインが決まる前に、ふたりの設定を調整して主人公とライバルを入れ替える形としました。 ──たしかに、そう考えると咲季はちょっとライバルっぽいデザインですよね。個人的にも、佑芽の方が従来の『アイマス』のセンターっぽい印象があります。 小美野氏: そこはすごく狙っていますね……というか、その真逆感を狙ってデザインしてもらいました。 咲季も主人公的なポジションを意識しつつデザインしたのですが、ライバルを想定していた頃のビジュアルイメージはもっと「ラスボス感」が満載でしたね。 ──ちなみに、ライバルを想定していた頃と現在とで、咲季の設定などは変わっているのでしょうか? 小美野氏: いえ、実はあまり変わっていません。 元から「死ぬほど努力している秀才」といった設定のアイドルだったので、「成長を描く」ことをコンセプトにした『学マス』のセンターとしては、咲季の方が面白くなりそうだと考えたんですよね。 つまり、成長曲線的にはかなり上がりやすい方なんですが、才能の限界もすぐに迎えてしまう。その状態になってからの成長をどう描くのかが、咲季のエピソードの軸になっています。そして、「そんな咲季が『学マス』のセンターだったら……一番面白くなりそう」と思ったんです。 ──そう考えると、花海咲季、月村手毬、藤田ことねのいわゆる「信号機トリオ」も特殊な組み合わせになっていますよね。 小美野氏: 「バランスは考えるな」というのが、僕が開発初期の段階からチーム全体に強くお願いしてきたことでした。 『学マス』はキャラクターデザインやシナリオも含め、「その子にとってのベスト」を最も大切にしています。だから、バランスは一切取らなくていいし、9人がバラバラでもいい。その代わり、その子にとっての一番ベストな方法を考えようと。 だから、信号機トリオも含め、僕らとしては「無理にバランスを取る」ことは考えていません。常に、「その子にとってそれがベストなのか」を最終的な判断基準とした上で、作り上げています。 ただ……僕が打ち合わせで何度も繰り返してきたからか、途中から開発メンバーの中に「バランス警察」が現れました。 僕が安易な方向に向かおうとすると「あれ? 小美野さん前にバランス取るなって言ってましたよね? いまバランス取ろうとしてませんでした?」と……。 一同: (笑)。 ──お話を聞いていて感じるのですが、『学マス』の開発チームはすごく仲が良さそうですね。 小美野氏: めちゃくちゃいいチームです。 譲れない部分ではぶつかり合いながらも、カジュアルな雰囲気はあり、楽しく開発しています。 ──『学マス』は最初に登場するアイドルも「9人」と、かなり人数が絞られている印象を受けます。実際、この9人のアイドルはすんなり決まっていったのでしょうか? 小美野氏: いや、全然すんなり決まってないです! ボツになった子もたくさんいますし、なんならキャラデザまで作ってからボツになった子もいます。 制作順としては、まず最初に信号機トリオの3人(咲季・手毬・ことね)と、ライバルになる3人(佑芽・美鈴・星南)を考えました。そこから残りの6人を作り上げていった感じですね。 ──この中で「一番制作が難航したアイドル」はどれになるのでしょう? 岩本氏: (篠澤)広ですね。 キャラ設定から難航していました……。 小美野氏: 実は、元々広のポジションにいた子が、ボツになってしまったんです。 その別案として、広が生まれました。 当初から「なんとなく枠的に9人くらいは作れるだろう」と思っていて……一度9人のアイドルを制作してみたのですが、ひとりだけボツになってしまいました。そこで新たに考えて、ゼロから作り直したのが広ですね。 ──ちなみに、「9人」という数字にはこだわりがあったりするのでしょうか? 小美野氏: 最初の『アイドルマスター』の人数をまったく意識しなかったと言えば嘘になるのですが、「結果的に9人になってしまった」というのが正直なところです。 やはり、ひとりひとりに手間をかけて制作した分、時間やリソースも大きくかかりました。極端な話、10人でも12人でも問題はなかったのですが、その工数はなくて……「9人作るのが限界だった」というのが実情です。 岩本氏: 一応、僕としてはなんとか「9人である納得感」は持たせたかったんですよね。だから、「きっと自分が担当したいアイドルが見つかるであろう最少人数」と「最初の『アイドルマスター』のアイドル枠数」をかけて、9人としました。 ──たしかに、ゲームシステム的にも工数的にも何十人も用意するのは難しそうです。 岩本氏: いきなり100人くらい作り出したら、『学マス』のコンセプトから変わってしまいますからね(笑)。 最初に「ひとりのアイドルにフォーカスしよう」と決めた時点で、アイドルの人数が少なくなるのは間違いなかったんです。だから、実のところ5人くらいでもよかったかもしれないのですが……さきほどの理由も含めて、9人になりましたね。 ──なるほど。こうして改めて見ると、9人全体でしっかりシルエット的にもちょうどいい感じになってるというか……いい感じのバランs 小美野氏: いや、バランスは取ってないです。 一同: (笑)。 岩本氏: 危ない危ない! まさにいまバランス警察が(笑)。 小美野氏: セーフ! セーフ!! ──少し踏み込んだ話になってしまうのですが、伏見さんにはあまり「ゲームシナリオ」を書かれている方との印象がないんです。「伏見さんがシナリオを担当することになった理由」などはあるのでしょうか? 小美野氏: これは事実ベースですが、ライトノベル業界において「女の子との日常を描いている作家さん」の中で、伏見さんは日本でトップクラスの方だと思っています。だから、これ以上の適任はいらっしゃらないと思っていました。 やはり『学マス』はゲーム上、「テキスト」の面白さが求められてしまいます。 その点において、「テキストでの勝負」では伏見さんで間違いないだろうと。 ──ちなみに、伏見さんは今作のメインシナリオもほとんど担当されているのでしょうか? 小美野氏: 厳密には、アイドルの設定を全員分作るのと、学園の設定を一緒に作りました。アイドルのシナリオ的には、咲季・手毬・ことね・千奈・広の5人を伏見さんが担当されています。 だからもう、伏見さんご自身で一番シナリオを書かれていますね……。 岩本氏: テキスト量的にも、伏見さんが一番多いですね。だから僕らも、いつもチェック時に「すみません……」と伏見さんにお願いをして(笑)。 小美野氏: しかも、伏見さんはめちゃくちゃ筆が早いんですよね。 そのうえで、クオリティも高いんです。 だから、滅多にこちらが直しを入れなくてもいいくらいで……もう僕ら側の作業としては「(伏見さんのシナリオが)コンセプトに合ってるかどうか」を確認するだけなんです。そこで「もうちょっとここを成長させたい」「この子のコンセプト的にはここを立たせたい」といった相談をしていました。 ■どうして「学園でアイドルマスター」なのか ──ここからは小美野さんと岩本さんがどう『学マス』開発に携わってきたのかお聞きできればと思います。まず、小美野さんが『学マス』の制作に参加した経緯についてお伺いできないでしょうか。 小美野氏: 僕は元々バンダイナムコで版権系のタイトルを担当していたのですが、ある時『アイドルマスター』シリーズのゲーム統括をしている三本(昌史)さんから、「『アイドルマスター』を一緒に作ってみないか」という相談を受けました。 僕が加わった段階ではまだペライチの企画書があるだけの状態だったのですが、その時点で企画書が面白そうだったんですよね。 ちなみにペライチの段階では、伏見つかささんが所属されているストレートエッジさんと、うちの坂上さん(陽三)【※】が話を進めているような感じでした。そこで「ぜひやりたいです」と快諾し、『学マス』のプロジェクトにチームごと移動して参加した形です。 ──では、初期の企画書の段階で「学園の『アイドルマスター』」というメイン要素は決まっていたのでしょうか? 小美野氏: 「学校が舞台」までは決まっていたのですが、ほとんどそれしか決まってなかったです(笑)。 たしか、僕と同時くらいのタイミングで伏見さんがアサインされたので、「どんな企画にするかはふたりで決めていいよ」とは言われていたんですが……「いや、学園は面白そうだしこれでいいよね」と話していました。 そこから主なコンセプトや「『アイドルマスター』らしさ」を探っていく中で、結果的に「学園」がベストな舞台なんじゃないか、という形に落ち着きました。 ──それはどういった判断があって、「舞台は学園がベスト」だという着地になったのでしょう? 小美野氏: 僕らと伏見さんが、『学マス』の制作において「『アイドルマスター』のいいところをどう残し、かつ新しさをどう加えていくか」コンセプトづくりの段階で出した答えが「成長を描きたい」ということでした。つまり、「アイドルの成長を描く」ことで、ニーズに応えようと考えたんです。 そこで、「学園」という舞台と、「成長」という要素が非常にマッチしていることに気づきました。アイドルとして成長していき、そして人としても成長する。そこを接続するために、結果として「学園」という舞台がベストだったんですよね。 ──では、岩本さんが今作の制作に参加された経緯をお聞きできればと思います。 岩本氏: 『学マス』に参加する前は、別のタイトルに参加していたのですが……その開発中に「『アイドルマスター』に興味ある?」と言われて、「あります!」とお答えしたら、いつの間にか参加していました(笑)。 一同: (笑)。 岩本氏: 本当にそういう経緯なんです(笑)。 だから、最初は別の企画と並行しつつ、何もわからないままミーティングに参加していました。初対面の時も「コイツ、『アイマス』好きなんですよ」と紹介してもらい、『学マス』に加わった形でしたね。 ちなみに、ニコニコ動画で「ニコマス」という文化に触れてから、『アイドルマスター』にハマりました。結構初期の頃から好きだったので、とても光栄でしたね。 ──岩本さんが開発に参加された時期としては、先ほどのペライチの企画書に対して小美野んと伏見さんがコンセプトなどを固めてから……ということなのでしょうか? 小美野氏: 具体的なコンセプトが固まってから、まずQualiArtsさんにご相談をしに行きました。2019年の9月ぐらいだったと思います。そこからQualiArtsさんと詳細な企画を作っていくタイミングで、本当に打ち合わせ中に「ちょっと『アイマス』に詳しいやつがいるから呼びますね!」と言われて、岩本さんが参加されたのを覚えています(笑)。 その打ち合わせで岩本さんとQualiArtsの方が「どう思う、この企画?」「いいと思います」という話をされていて……そこから、気がついたら打ち合わせに出席されるようになっていましたよね。 岩本氏: 本当に、ぬるっと参加しましたね。 ■「その作り込みは無理です!」「でもやってほしいです!!」 ──岩本さんはQualiArts側のトップとして開発を担当しているとお聞きしたのですが、元々『アイマス』がお好きだったと考えると、やはり『学マス』の制作に参加されるのはプレッシャーが大きかったのではないでしょうか。 岩本氏: 震えましたね……というか、今でも震えてます(笑)。 ただ、「嬉しさ」も同時にありました。ここまで大きなプロジェクトに参加したこともなかったですし、緊張と嬉しさが半々くらいでしたね。 小美野氏: 岩本さんとは、本当に二人三脚でここまで作り上げてきました。 特に開発中期くらいは、細かい部分の相談などもめちゃくちゃ密にコミュニケーションを取っていましたね。なにかあったら「このあとお時間いいですか?」と電話をして、打ち合わせをして……その繰り返しで作り上げてきました。 ──おふたりのやり取りについて、もう少し詳しくお聞きしてみたいです。 小美野氏: QualiArtsさんに限らず、基本的に僕は「できるだけ直接的な言葉でお願いをする」ということを心がけています。伝わらないと意味がないですから。 開発のみなさんの都合を考えたり、オブラートに包んでうかがうよりかは、「僕はこれがしたいんです」「ゴールはこれです」ということをハッキリ提示させていただいた上で、可否を決める。そこから「どうやってそこに向かうのか」を話していく。そうした方が、結果的に時間も早く済みますよね。 だから、もう最初の時点でQualiArtsさんには「僕はストレートに言う人間です」というご説明をしていましたね。それこそ『学マス』に登場するアイドルの「髪のポリゴン数」で、「どこまで作り込めるのか」を相談した時にも、「僕が目指したいのはこれくらいです」とストレートにお伝えしていました。 そのうえで、岩本さんからは「それは無理です!」と(笑)。 一同: (笑)。 小美野氏: 「その作り込みは無理です!」「でもやってほしいです!!」といったやり取りを、繰り返していましたね。実際に「どこを落としどころにするのか」についても、しっかり話し合いながら決めています。 ──岩本さんの中で「小美野さんにストレートに言われて印象的だったこと」などはあったりしますか? 岩本氏: ……………「可愛くない」とかですかね(笑)。 おっしゃられた通り、小美野さんはすごくストレートにものを言うんですよね。最初に結論の「こうなんです」と言ってくれるので、それが毎回印象的ですね。「面白くない」とかも普通に言う。 でも、そこで傷つくというよりかは「率直な感想」として受け取って、毎回「じゃあ、どうしようかな……」と悩み始めます。だから、僕の中では「小美野さんの要望を当てるためのハードル」が、勝手に上がっていますね。 小美野氏: 端的にお伝えした後、一応なぜならこうだからって説明はいつもしてますよ……! とはいえ、この辺のやり取りはある程度岩本さんとの距離が縮まってからです! ちなみに、割と初期に開発チームで「決起会」のようなものを開いて……そこで岩本さんとは腹を割って話せるようになりましたね。 ──ここまでの流れとは全然関係ないのですが、「おふたりの一番好きな作品」をお聞きできればと思います。特に、「人生で一番好きな作品」をお聞きしたいです。 小美野氏: 僕は『マブラヴ オルタネイティブ』です。一番好きな作品というより、「自分の人生が変わった作品」ですね。じつは「ゲームの仕事をしよう」と思ったのは、大学生の時にあの作品を遊んだのがきっかけなんです。 たしか2006年に『オルタネイティブ』が出たと思うのですが、それより少し前に『Fate/stay night』や無印『マブラヴ』を遊んでいて……あの時期に、その辺のゲームを結構遊んでいました(笑)。 特に『オルタネイティブ』は、泣きすぎてパソコンを壊してしまったんですよ。 ──えっ、「泣きすぎてパソコンが壊れる」というのはどういうことなんですか? 小美野氏: 当時はキーボードと一体型のデスクトップPCだったんですが、流しすぎた涙がキーボードに侵食して、パソコンが壊れました。特に最後のシーンがね……。 岩本氏: そう、そこ。そこが最高なんですよ(笑)。 ──岩本さんもそういったノベル系のゲームがお好きなのでしょうか? 岩本氏: 僕は『パルフェ ~ショコラ second brew~』が一番好きですね。 どれくらい好きかというと、一時期友達と「毎年クリスマスに『パルフェ』をする会」をやっていたくらいです。ふたりで開いていた会なんですが、毎年ふたりで『パルフェ』を遊びながら泣くクリスマスイブを過ごしていました(笑)。 ──ちなみに、『パルフェ』のどういったところが好きなのでしょう。 岩本氏: 僕は元々、丸戸史明さん【※】の作品が好きでした。『パルフェ』はその走りみたいな作品だと思っています。 「癒やし」と「裏切り」がどっちも得られるゲームになっていて……要は、癒やしの日常パートがありつつ、最終的にそれが裏切られて、泣ける。この「軽さ」と「重さ」の両方を味わえるのは、かなり丸戸先生の特徴ですよね。ここに、すごく影響を受けています(笑)。 もちろん、『マブラヴ』なども好きですね! ──おふたりとも、結構趣味が近い部分があるんですね。 小美野氏: そうなんですよね。 もちろん僕も『パルフェ』は遊んでいますし、プライベートでも普通に遊んだりします。 岩本氏: 休みの日にポケカとベイブレードで遊んだりしてます。 バンナムさんとウチの社員で、ポケカ大会を開いたこともあります(笑)。 一同: (笑)。 ■『学マス』の設計思想って、何? ──小美野さんは『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(以下、『ミリシタ』)などでプロデューサーを担当されていましたが、岩本さんはこういった統括的なお仕事を担当されるのは初めてなのでしょうか? 岩本氏: 初めてですね。 小美野氏: あと、岩本さんはお若いんですよね。 岩本氏: 32歳です! ──ゲーム業界のディレクターを務める年齢を考えると、たしかにお若いですね。実際、『学マス』で初めてディレクター業を担当されてみて、いかがだったでしょうか? 岩本氏: 最初は、すごく苦労しました。 そもそも「他社と共同で作る」という経験が初めてだったのもあり、最初は「説明すること」が上手くできなかったんですよね。細かい仕様とか、説明責任とか……。開発中の「こうした方が気持ちや意味が伝わりやすいかな」という伝え方は、かなり気をつけていましたね。 小美野氏: えっ、そうだったんですか? 逆に僕は、共同事業の経験がすごく多くて……。たとえば、ロボットや少年誌系のゲームでは、読者の皆さんが一度は聞いたことがあるような他社さんとやり取りをするケースが多かったです。 だから、岩本さんはその辺の共同事業的な側面でも、すごく上手くディレクターをされている印象がありました。 岩本氏: あぁ、よかったです……。 ──ディレクターはどうしても「判断を下す」職業になってしまう部分もあると思うのですが、そういった判断も岩本さんは問題なく行えたのでしょうか? 岩本氏: もちろん問題はいくつもあったし、たくさん仕様変更もしているのですが……「自分の中の軸」はブレることなく、作り上げられましたね。最初に「ここは絶対にブレさせない」というコンセプトを決めたこともあり、大きく間違えることはなかったと思います。 ──その「軸になったコンセプト」は、具体的にはどういったものなのでしょう? 小美野氏: 『アイドルマスター』シリーズを制作する時、必ず「コンセプト設計シート」を書いて、その企画のコンセプトや狙いを、すべて言語化するんです。 これは坂上の『主人公思考』という本にもっと詳しく書かれているのですが……まず、「ターゲット」「ニーズ」「アイデア」「ベネフィット(利益、恩恵)」を、すべてテキストで書いていきます。 この企画はどのターゲットのどんなニーズに応えて、どんなアイデアの作品で、どういうベネフィットを感じてもらうか。初期の頃の企画書には、必ず2ページ目にこの4点が書かれています。 そしてこの4点を、企画を持っていった時には必ずすり合わせます。だから、僕も岩本さんから新しい仕様の提案を受けた時には、「この仕様はどのニーズに応える、どんなアイデアなのか」をすり合わせていました。ある意味、「プロジェクト内での判断の物差し」としての役割もあったりします。 ──すべての『アイドルマスター』シリーズでそういった設計書を制作されていると、ある種「定番のコンセプト」ができあがってくるのではないでしょうか? 小美野氏: まさにそうですね。 それこそ『学マス』のコンセプトは、結構定番のものなんですよ。 やっぱり「どのニーズに応えるか」がシリーズごとにある程度固まっている部分があって、そこをどう差別化していくかが難しいんです。大体「ニーズ」は3つくらい作るのですが、基本的に一番上のニーズは変わりません。逆に、二番以降のニーズで、他の作品との差別化を図っていきます。 『学マス』で言うと、「“成長”というメインコンセプトがどういうニーズに応えるのか」といった部分などで、少しずつ他のシリーズとの差分を作っていきました。 ──では、『学マス』のコンセプトを作る中で、どういったことを考えられていたのでしょうか? 小美野氏: 坂上のような先達から「『アイドルマスター』の良さ」をいろいろ聞いた上で、「時代に合わせたものを作っていく必要がある」と考えました。ただこれまで作ってきたものをなぞるだけだと、意味がない。そしてこれまでのシリーズ作品も、同じことをやってきていると思います。 この「新しいチャレンジをする」ということが、『学マス』を設計する中で重要視した部分です。 ■実は「ファンタジー世界にアイドルが転生して戦うRPG」も考えてた ──先ほど『学マス』のメインコンセプトは成長とお聞きしましたが、「どんなゲームにするのか」はどのように決まっていったのでしょうか? 小美野氏: さっきお話した通り、初期の企画書の時点で「学園」という要素は決まっていて、それは「変えてもいいよ」と言われていました。だから、むしろ当初は舞台そのものを変えるつもりだったんですよ。 実は最初、「RPGを作ろう」と考えたりもしました。 ──RPGですか! 小美野氏: 「どんなゲーム性にしよう?」と考えて最初に出した企画が、ファンタジー世界にアイドルたちが転生して戦うRPGだったんです。 当時は僕自身が『アイドルマスター』シリーズにそこまで詳しくなかったので、「自分の知見を活かせるゲームはなんだろう」と思った時、一番最初に浮かんだのが「バトルもの」でした。それを活かそうと思い、学園よりバトルものに近いような文脈で作っていったのですが……坂上さんに一蹴されました。 「これ、誰のどのニーズに応えんねん!お前素人か!」と言われて(笑)。 一同: (笑)。 小美野氏: そこから「ゲーム作り」というものをイチから坂上さんに叩き込んでもらうターンが始まり、最終的には「成長」と「学園」という要素をかみ合わせて、今の形にたどり着くような流れです。 ──坂上さんにいろいろと教えてもらいつつ、現在の『学マス』の育成シミュレーション的なゲームシステムが作り上げられたんですね。 小美野氏: そうですね。「RPGの文脈でファンタジーの『アイマス』を作る」こと自体は間違っていないと思うのですが……僕の良くなかったところは「単なるワンアイデアとしてその企画を出してしまった」ことですね。つまり、その企画が誰のどのニーズに応えるかを考えられていない。 深く先を考えずに思いつきで「これ面白そうじゃん!?」くらいのノリで持ってきているから、坂上さんは一蹴したのだと思います。それは、今になるとよくわかりますね……。いま部下や後輩に同じ企画を持ってこられたとしたら、僕も「誰のどのニーズに応えとるんじゃ!」ってキレると思います(笑)。 ──では、開発の時系列的には『学マス』の主なゲームシステムが決まってから、岩本さんが参加されたような流れなのでしょうか? 小美野氏: いや、実はゲームシステムに関しては「ほぼ同時」でした。 ゲームシステムを考えていた時、バンナム側で持ってきた内容と、QualiArts側で岩本さんたちが持ってきてくれた内容が同時に上がってきました。しかも、そのゲーム内容がピッタリ一致したんです。お互いに「このシステムしかないんじゃない?」と思っていたものが、完全に合致しました。 そこで「両者とも同じものを挙げてきたなら……これはイケるんじゃないか?」と判断し、その場で決めて制作に移っていきました。 岩本氏: あれって同時だったんですね! ──それは、「育成型のゲームシステムが同時に上がってきた」ということなのでしょうか。 小美野氏: いえ、育成型っぽいシステムは元々考えていました。厳密には、そこに「ローグライク」という要素をかみ合わせるアイデアが両者同時に上がってきたんです。 これまでのシリーズにも、育成型のタイトルはいくつか登場していました。ただ、その「これまでの育成型」をアップデートしたかったんです。たとえば、既存の作品と全く同じシステムのゲームを今から作っても、それは「じゃあそれでいいじゃん」と思われてしまいます。 だから、そこにゲーム性として新しい遊びや、面白さを加えたい。そこの「新しい面白さ」を表現するためのシステムをお互いに探っていた中で、最終的に「ローグライク」という形に落とし込みました。 ■「あるもの」を実現するための手段の中で、「ローグライク」がベストだった ──『学マス』に「ローグライク」という遊びが適していると判断したのは、どういった要因があるのでしょう? 小美野氏: まず、ローグライクの「繰り返しプレイする」というシステムが、『学マス』のコンセプトでもある「アイドルの成長」と、すごくマッチしていたんですよね。 いわゆる育成型のゲームは、一度プレイしたらキャラの育成自体はそこで終了してしまうものが多いと思います。一方でローグライクは一度クリアしても、ちょっとキャラが強くなったりして、もう一度最初からプレイできる。プレイするたびに中身がどんどん変わっていき、プレイヤーも考えることが増えていく。 この「繰り返し遊ばせることを前提とした作り」こそが、ローグライクのいいところだと思っています。そこと、今作の「何度もプロデュースすることで、ひとりのアイドルを大切に育てていく」遊びがすごく相性がいいと判断し、ローグライク要素を取り入れました。 岩本氏: そこは自分も全く一緒ですね。 ローグライクって、あくまで手段なんです。特に『学マス』の場合は、繰り返しアイドルに向き合って遊ぶ中で、「積みあがるもの」が必要でした。それを実現するための手段の中で最も相性がよかったのが、「ローグライク」というシステムだったんです。 『Slay the Spire』や『ダンジョンメーカー』、『HADES』とか……。ああいったローグライクのゲームは何度繰り返し遊んでも気持ちがいいし、「積みあがっていく」感覚があるじゃないですか。その繰り返しの中で得られていく「もの」や「こと」が積みあがっていき、アイドルが成長するのは……きっと面白いだろうなと。 ──「ひとりのアイドルに向き合ってもらう」ためのローグライクでもあるんですね。では、『学マス』はどちらかというとガッツリ遊ぶことを想定したゲームなのでしょうか? 「スマホゲーム」という括りの場合、気楽に遊べるように設計された「サブゲーム」的なコンセプトの作品もあると思うのですが。 小美野氏: もちろん遊び方のスタイルはお客様それぞれだと思うのですが……「僕らの狙い」で言うと、やっぱりひとりのアイドルに強い思いを持ってほしいし、できればガッツリ遊んでもらえると嬉しいです。 ただ、このローグライクを組み込んだ遊びをどう「スマートフォンアプリ」として落とし込むのかは、結構な話し合いがありました。一般的なローグライクの遊びをそのままアイドルナイズした試作版を作ったこともあったのですが、とにかくプレイ時間が長かったんです……。 岩本氏: アレは長かったですね……(苦笑)。 しかも、やたらと複雑でした。 小美野氏: あの時に、「そのままローグライクを組み込むのは難しいね」という話をしました。そこから少しずつ引き算をして、現在の『学マス』の形にちょっとずつ持っていったような感じです。 だから、現在の『学マス』はじっくり遊ぶこともできるし、「サブゲーム」ほどではないにせよ、ある程度手軽に遊んでいただくことはできます。ここをどう両立させるかは、結構試行錯誤をしながら作り上げました。かなり時間をかけてチューニングしてきたので、これで無理ならもう正直無理です! 一同: (笑)。 小美野氏: ゲーム部分に関しては本当に何度も調整をかけて、「ここだ!」と判断した一番絶妙な塩梅を作り出せたとは思っています。もちろんこの先もアップデートはしていきますが、リリースとしては「ここがベスト」だと判断した上で、送り出しています。 ■誰も見たことのない「アイドルの表現力が成長する」システム、なぜ作ろうと思ったのか ──『学マス』には「ゲーム内で成長すると、実際にアイドルの歌やダンスなどの表現力が上がっていく」仕組みがありますよね。これもある意味、「ストーリー的なローグライク要素」として組み込まれているのでしょうか? 小美野氏: やはり「アイドルゲームで成長を描く」と言った時、真っ先に「じゃあなにで成長を描くの?」という話になるとは思っていました。そして企画を相談している時に、「実際にゲーム内で歌やダンスが上手くなるのが面白いんじゃないか」というアイデアが出て……「それだ!!」と(笑)。 でも、当初は我々自身も「それはどうやってやるの?」と思っていました。 岩本氏: 「どうやるのかはわからないけど、間違いなくそれがいいだろう」って感じでしたよね(笑)。 小美野氏: そこから「このアイデアをどうやって実現するのか」を、両社で考えていきました。 なぜこのシステムが必要になったのかというと、やっぱり『アイドルマスター』は「作品の中に自分が入り、プロデューサーとしてアイドルを育てていく」という、ロールプレイング的な遊びだと思っているんです。 たとえばRPGが、「なぜRPGたりえるのか」を考えると、それは能力やレベルが上がり、パラメーターが成長し、敵に与えるダメージが大きくなり、倒せるボスも増えていく……そんな「ゲーム的な成長」と、「ストーリー的な成長」の係数が重なっていくからだと思います。 要するに、レベルが上がって数値的に成長することと、ボスを倒して勇者として称えられていくストーリー的な成長が合わさることで、プレイヤーはどんどん没入できる。 『学マス』は、その係数の重なりをアイドルゲームで表現したかったんです。 だから、単に「パラメーターが上がりましたよ」と言われるだけでなく、ゲーム内で歌やダンスが実際に上手くなる必要がありました。RPGにおける「倒せる敵が増える」「与えるダメージが増える」楽しさをアイドルゲームで表現するために、このシステムがあるんです。 それによってアイドルたちが人として成長していけば、「村人が勇者になり、周りからも勇者様と称えられていく」というストーリーを、『アイドルマスター』でも描けるんじゃないかと。この「ロールプレイング足りえる要素」による没入感を、『学マス』はかなり意識しました。 ──「ストーリー的な成長曲線」と「システム的な成長曲線」の両方が重なっていく瞬間を表現するために、この仕組みがあるんですね。 岩本氏: 両方をリンクさせるために、このシステムにしましたね。 ──岩本さんにもお聞きしてみたいのですが、やはり「実際にゲーム内でアイドルの歌やダンスが上手くなっていく」という仕組みは、とんでもない工数がかかるのではないでしょうか。実際のところ、これはどんな工程で作られているのでしょう? 岩本氏: 僕自身も、「これはとんでもない工数だろうな」と思いながら提案しました……。 最終的には、「パターンを用意する」という作り方をしました。アイドルの表現力に合わせてパターンを用意し、尺や前後のパートを調節することでこの仕組みを表現しています。 でも、最初は本当に無限にパターンを作ろうと思っていたんです。端的には、「パラメーターが1でも上がったら、ちゃんと演出も1変わる」という作り方を試してみたのですが……差が全くわからなかったんですよね(笑)。 ──なるほど(笑)。 岩本氏: これが「攻撃力」だったとすると、ダメージやHPバーとしてわかりやすく表示されたりしますよね。でも、「ダンスの数値が1上がって、腕の振り幅が1上がる」という表現にすると、全然わからないんです。それがプレイヤーにとっての「成長の実感」になり得ないと判断し、今の形に落ち着きました。 「アイドルの表現力の成長」で言えば、この「アイドルに寄り添うために、パターンを絞った」ところが最大の工夫だと思います。あとは、シンプルに気合いですね。 ──個人的に気になっているのですが、5段階で「上手さ」と「下手さ」を表現した場合、「5の上手さ」と「1の下手さ」はある程度わかりやすいと思います。ただ、その中間にある「4の上手さ」と「2の下手さ」はもう見分けがつかないような気がしているのですが、そこはどう作られたのでしょう? 岩本氏: 仕様的な工夫で言うと、「尺」で表現しています。たとえば歌の場合は、「(アイドルが)どこまで歌いきれるのか」が、わかりやすい差ですね。あとは、「歌う場所」も変わっていたりします。観客が変わったり、ステージが豪華になっていったり……その辺は「わかりやすい記号的な差」をつけて表現したりしています。 小美野氏: あとは、演出面ですね。 キャストさんの演技で変えている部分も結構あります、 そして、この話を聞いているみなさんが思われるであろう「本当にそんなことできるの?」という疑問を……開発初期は僕らも思っていました(笑)。 一同: (笑)。 小美野氏: 企画書ではずっと書いてきたのですが、実際に完成するまで「脳内のイメージ」と「実際の画面」が僕らの中でも全然合致していませんでした。ライブシーンの完成ギリギリ前まで「本当に大丈夫か……?」という模索の中でした。 ですが、テストで通しプレイをした時に、実際の画面と脳内のイメージが完全に一致したんです。最初はカッコいい歌い方や踊り方をしていたのに、ちょっと迷走して、途中でかわいい歌い方とダンスを練習し始めてしまう。そんな葛藤を経て、最終的にはカッコよさとかわいさが融合した姿になった。 この成長曲線を見た時に、「俺たちがやりかったのはこれだ!!」と思えたんです。 今はもうリリース後なので、みなさんの手元で成長差分を確認できていると思うのですが……そこの「成長の差」がわかりやすいように、仕様や演出をしっかりと作っていきました。 ■一瞬あだ名が「6万ポリゴン」になった ──QualiArtsさんは「ライブやモデルの完成度には特に気合いを入れる会社」というイメージが強いのですが、実際『学マス』のライブシーンやモデルには、どんなこだわりが込められているのでしょう? 岩本氏: まず、今作はモデルに関しても「ひとりに注力する」というコンセプトで作られています。だから、端的に言うと「ひとりあたりのクオリティと製作コスト」が、めちゃくちゃ上がってるんです……。 最初にそう決めてしまったからこそ、そのクオリティに毎回応える必要があります。そういう「全部のハードルが上がっている」ような辛さはあるのですが……特に一番大変だったのは、さきほども話題に出た「成長する過程のライブ」ですね。 「アイドルの表現力が成長して、ライブも進化していく」という差分のつけ方は、どこのゲームもまだやっていない表現だったんですよね。考えるのも大変だったし、それを具現化するのも大変でした。 ──その「モデルを作り込む」というコンセプトは、なにか小美野さんから指示があったのでしょうか。 小美野氏: お互いに話している中で、「ひとりにフォーカスする」というコンセプトまでは決まりました。そこから「ひとりにフォーカスしてモデルを作るなら、6万ポリゴンくらいで作れます」という提案を受けたんですよね。 その言葉がめちゃくちゃひとり歩きして、僕は一瞬あだ名が「6万ポリゴン」になったりしました。 一同: (笑)。 小美野氏: 正直こちらもQualiArtsさんの「6万ポリゴンくらいのモデルを作れそうです」という提案には「えっ、そんな行く……?」と困惑していたんですよ。しかも、今から4~5年前の6万ポリゴンですからね(笑)。 だから、明確に「モデルのクオリティを上げたいです」という提案をしたのではなく、「ひとりに注力する」というコンセプトから入った形ですね。 ──ちなみに、一般的なスマホゲームはどれくらいのポリゴン数でモデルを作られているのでしょうか? 岩本氏: かなり高くても、2万ポリゴンくらいだと思います。 小美野氏: 現在のスタンダードで考えると2~3万くらいはあると思うのですが、4~5年前の企画当時はまだ8000~1万弱でモデルを作るのが基本だったと思います。だから「6万だったら彼女たちの魅力を最大出力で伝えられる」と考えたんですよね。 ──こちらも「成長」に合わせたお話なのですが、『学マス』はアイドルごとに個別のモーションを用意されているとお聞きしました。この「アイドルごとのモーション」にも、成長パターンが用意されているのでしょうか? 岩本氏: 端的に言うと、1曲に対して3曲分のダンスを作っています……。 小美野氏: そもそもアイドルひとりひとりで曲が違うので、振り付けも違うんです。 そのうえで、成長パターンのモーションも変える必要がありました。 岩本氏: 要は、「アイドルのモーション」×「曲の振り付け」×「成長パターン」のかけ算です。 ──それは……そこにGOサインを出した判断がすごいと思います。 小美野氏: これは『学マス』の制作中、僕が常々言っていたことなんですが、「やるなら徹底的にやる」んです。やらないなら、やらない。やるなら、徹底的にやる。多分『学マス』チームの人たちは「うるせえなコイツ……もう何回も聞いたよ……」と思ってるはずなんですけど……。 一同: (笑)。 小美野氏: 僕自身も徹底的にやりたいタイプですし、「もしやるのだとしたら、コストとかは関係なくどこまでできるかチャレンジしてみよう」という方針で作り上げてきました。そんなバンナム側の無茶な要望にキッチリ応えてくださってるのが、QualiArtsさんです。 もう、覚悟ガンギマリな状態でこのプロジェクトは走り始めています。 岩本氏: やはり「成長」が今作のコンセプトだし、核たる部分でもあるんです。 だから、そこはコストをかけるべきなんですよね。 小美野氏: さきほどから何度か「コンセプト」の話が出ていると思うのですが、僕らも常に「コンセプトを大事に!」と言っているわけではなくて……たとえば「ビジュアルを決める時」にしても、いろいろなアイデアや意見が出た時に改めて立ち返るところが、「コンセプト」なんです。 だから、むしろ意見は多い方がいいんです。逆にコンセプトがないと、そうなった時に迷ってしまいます。軸や幹の部分がハッキリしていないと、いろいろな意見が出た時に立ち返る自分の足場がなくなってしまいます。……という、坂上からの受け売りです(笑)。 ──そこで言うと、『学マス』はUI周りも気合いを入れて設計されたとお聞きしました。ここにも、なにかしらのコンセプトが込められているのでしょうか? 岩本氏: UI周りは、「アイドルとの距離感」を考えて作っていきました。 全体的にすりガラスのようなデザインになっているのですが、あれは「プレイヤーとアイドルの間に、できるだけものを置かないようにする」というイメージで作り上げられています。 ここは今作が縦画面になっている理由でもあるのですが、「アイドルを身近に感じる」ということをニーズのひとつに含んでいて、そこに応えるためのUIデザインだったりします。 要は、「アイドルと自分を遮るものはガラスの板1枚だけにしよう」という感じですね。まさにスマホの液晶がガラスですから、アイドルを身近に感じていただけるようなUIとしています。 ■レベルが一段違う『学マス』のライブ、キーワードは「〇〇〇〇感」 ──モーションと言えば、『学マス』はライブシーンのクオリティがすごいことになっていますよね。 岩本氏: あの「生ライブ感」は、すごく工夫しましたね。 ──「生ライブ感」ですか。 岩本氏: 要は、「現実のライブの雰囲気」を出したかったんです。 「実存感」というか……。 その雰囲気を出すために、実際に「いま流行りのカメラワーク」や「ライトの色合い」を研究したり思案したりしました。特に、「観客」にはこだわりましたね。寄った時も引いた時も観客のモデルがしっかり映っているし、コールも別だし、よく見るとひとりひとりが違うサイリウムを持っていたりします(笑)。 この辺は、「モデルのリソースをひとりに絞ったから」こそ実現できた部分ですね。 ──ライブシーンの完成度は、かなり話題を呼んでいますよね。 岩本氏: 意外と気づかれていないところを挙げるなら、実は「クレーンカメラ」が実際に置かれていたりします。他にも、よく見るとステージ上にちゃんと傷がついていたりもします。 そういう細かい部分を表現すると、なんか「実存感」が上がるんですよね。逆に、そこを表現しないとどうしても映像が嘘っぽくなってしまうんです。この「生ライブ感」は、クリエイターのこだわりが詰め込まれていますね。 ──個人的には、「カメラアングル」に強いこだわりを感じます。特に花海咲季のライブシーンは、すごく激しいカメラワークでしたよね。 岩本氏: その辺も、アイドルごとに分けています。 まず曲があり、「実際にこの曲でライブをするとしたら、こういうカメラワークになる」といった生っぽさの表現は、かなり研究した上で作っていますね。 小美野氏: 特に莉波のライブシーンなんかは、「本当にライブでやりたくなるような演出」をゲームで先にやっちゃったんですよね。僕らも「これリアルライブでやりたいなぁ……」と思っています(笑)。 ──そう考えると「ソロ曲だけ」というのも、『アイマス』シリーズの中ではかなり特徴的ですよね。 小美野氏: そこは、結構悩んだんですよね。『学マス』の場合、いわゆる「全体曲」を作ったとしても、必ずひとりでライブをするゲームのシステム上、結局「ソロ曲」になってしまうんです。 本当にソロだけでいいのか、せめてバックダンサーを立たせるべきなんじゃないか、やっぱり他のアイドルもライブには出した方いいんじゃないか……そういう問題を初期に話し合ったのですが、そこはもう「振り切ろう」と判断しました。 岩本氏: ウチの社内でも、散々言われてましたね……。 今は「できるだけ多くの人数でライブをする」ことが美徳とされているのに、そこに対して『学マス』は必ずひとりのライブなんですよね。周りからもずっと「お前はバカなのか?」と言われてたんですが、「うるせえ!やるんだよ!」と(笑)。 小美野氏: もちろんMAXのライブシーンを見ていただくのが『学マス』のゴールではあるのですが、さきほど「プロセスが大事」とお話した通り、「最後のライブにたどり着くまでにどんな道を歩むのか」をゲームとしては描きたかったんです。 だから、最初の中庭の平場で踊っているライブシーンを見た時に、ユーザーさんには「ここからなのか……!」と感じていただけると嬉しいですね。 僕自身、小さなステージでアイドルの方がライブしているところを見たことがあって……やっぱり場所が場所だけに「頑張れ!」と応援したくなるんですよ。それをゲーム内で、かつ自分の担当しているアイドルがやっているところを見たら、間違いなく「ここからなのか……!」と思ってしまうはずです(笑)。 ──楽曲面で言うと、『学マス』はGigaさんやナユタン星人さんといった、著名なコンポーザーさんも多く参加されていますよね。このコンポーザーの選定には、なにか具体的な方針があったりするのでしょうか? 小美野氏: まず、アイドルごとの楽曲を作る時に「こんなイメージの曲が良いです」と、既存の楽曲をいくつか挙げたんです。そこで決めたのが、「そのままそれを作った人にお願いしよう」ということでした。 要するに、「それっぽい曲を作る」のではなく、「そのイメージ曲を作った人に直接お願いする」方針で作ることにしました。だから、「著名な方にお願いしたい」というよりかは、「そのアイドルのイメージに合った楽曲を作ってくれる人」にお願いするような形でした。 それこそ、当初リーリヤの曲は「バラードがいいんじゃないか」と言われていたんですが、僕らとしては「それは嫌だ」と。リーリヤは日本でアイドルになるために海外からやってきた……つまりリーリヤ自身の挑戦に対して、僕らはこんな「安牌」でいいのかと。 たしかに、リーリヤのイメージ的にバラードを作りたくなってしまうのはわかるのですが……彼女自身のチャレンジ精神に応えられるような楽曲を目指して、現在の「白線(リーリヤのソロ曲)」が完成しました。 ──ある意味、曲調にバラつきのあるコンポーザーさんの選定だと感じていたのですが、「アイドルごとのイメージに合わせる」という狙いがあったんですね。合点が行きました。 小美野氏: アイドルごとの楽曲のコンセプトを作っている形ですね。 大きくわけると、「開発側のメタ的な曲のイメージ」と、「作中のアイドルが歌いたいと思っている曲」と、「作中のプロデューサーがそのアイドルにどんな曲を歌わせるのか」という3つの視点から考えた上で、曲のコンセプトを決めています。 これも実は3つくらいのワードを抽出した上で作っているのですが……これはさきほど話した設計づくりと大体同じ作り方ですね。 ■「人に愛情を注ぐこと」の分析が、『学マス』に現れている ──これまでに何度か「シリーズの中で新しいチャレンジをする」というお話が出ていますが、実際のところ『学マス』を作るにあたって、過去の『アイドルマスター』シリーズをどのように分析されたのでしょうか? 小美野氏: 僕は『ミリシタ』を担当している時に、めちゃくちゃ勉強させていただきましたね……。『ミリシタ』はバンダイナムコスタジオと一緒に制作をしていたので、昔からシリーズに関わっているスタッフの方々に「『アイマス』のノウハウ」をすごく教えてもらいました。 それだけでなく、さきほども挙げた坂上や三本から「『アイマス』とは何なのか」を教えてもらったため、「分析」というよりかは「先達のノウハウを吸収した」という感じですね。 岩本氏: 僕は元々プレイヤーとして『アイマス』に触れていたので、実際にプレイした時の「最初に感じた大事な感覚」を、一番大切にしていましたね。あと、僕自身が分析したというよりQualiArts側の開発チームにも『アイマス』好きのメンバーがたくさんいたので、みんなの「ファンとしての声」を照らし合わせていくような作り方でした。 ──岩本さんにとっての「『アイマス』をプレイして最初に感じた感覚」とは、なんなのでしょうか? 岩本氏: 「アイドルをプロデュースするという体験そのもの」ですね。 『学マス』では、そこを一番大切にしていました。 むしろ、そこから立ち上がったゲームであり、プロジェクトでもあります。「アイドルをプロデュースするのはどういうことか」を考えながら、作り上げていきました。 ──その「アイドルをプロデュースする体験そのもの」を考えた結果が、『学マス』ではどのように表現されているのでしょう? 岩本氏: 僕自身の言語化ではあるのですが、最終的に「娘を育てるとは」というイメージに落とし込んでいきました。他に「会社の後輩を育てるとは」というパターンもあったりしたのですが……要するに、「その人に愛情を注ぐとはどういうことなのか」ということを、口語にして考えていったんです。 こうしたら「その人に完全に向き合った」と言えるし、泣けるし、感謝されて嬉しいと思える。そんな「他人に愛情を注ぐこととは」というシチュエーションやイメージを、かなり言語化しました。その体験を、ゲーム内のひとつひとつの日常のシーンや、最後の締めのシーンに反映していたりします。 「自分が娘と向き合うとしたら、こうされたら嬉しいよね」というシチュエーションを書き出し、それをひとつひとつ反映しているような感じです。 ──岩本さんが「アイドルをプロデュースする体験」を重視されていたように、小美野さん側の「『学マス』を作る上で最も大切にしたこと」をお聞きしてみたいです。 小美野氏: やはり、そこも「成長」なんです。 これまでの『アイドルマスター』という作品の中では、あくまで「成長」はひとつの要素だったと思います。ただ、『学マス』はそれをメインに据えようと考えました。そういう意味では、「自分なりに『アイマス』を分析した結果」として、これまでの作品にもあった「成長」という要素を抽出した上で、ゲームの主軸に据えたような形です。 『アイマス』と他のゲームの違いって……「ゴールに至るまでの道のりが重要なこと」だと思うんです。 基本的なRPGの場合、「敵に勝つこと」や「ストーリーをクリアすること」といった、ゴールが目的になっていますよね。でも、『アイマス』の場合は、ゴールに至るまでの「このアイドルをどうやってプロデュースするか」が大事になってるんです。 この「プロセスを大事にするゲーム」って、改めて考えてみるとすごく斬新なことをしていると思ったんですよね。だから、『学マス』でも、アイドルとの関係値を築いていく上での「二人三脚感」をどれだけ演出できるかが、大事だと考えました。 ──たしかに、『アイマス』シリーズは明確にラスボスやゴールが用意されているというより、その間の道のりが大切になっていることが多いですよね。 小美野氏: そこが僕の中では、『アイマス』の魅力的な部分でもあり、強みに映ったんですよね。 岩本氏: RPGで言えば、「途中で話す村人のセリフの方が大事」みたいなゲームですよね。 ──これまでのお話の中でなんとなくそういう雰囲気を感じ取ったのですが、『学マス』のシナリオは「泣ける」ようなイメージなのでしょうか? 小美野氏: 僕はもう、テキストだけで泣いちゃいましたね(笑)。 岩本氏: 僕もテキストだけで泣きました。 ──なにか、シナリオ担当の伏見さんにオーダーがあったりしたのでしょうか? 小美野氏: いえ、僕から伏見さんに何かしらのオーダーをしたことは全然なくて……むしろ、「泣かせてください」とは一言も言っていないんです。多分伏見さん自身も泣かせるつもりで書いてはいないと思うのですが、僕は最終的に曲を聞くだけで泣くくらいになりました。 ──やはりゲーム体験的に、アイドルへの思い入れが強くなっていくからでしょうか。 小美野氏: 実は「曲」も、各アイドルの成長曲線に合うような作りにしているんです。ゲーム内で曲が流れるタイミングと、そのアイドルが成長する内容ができるだけリンクするような曲作りを意識しています。 だから、単体で聞いてもいい曲なのですが、シナリオを読んだ上で聞いてもらうと、もっとよく聞こえるように仕上がっています。 岩本氏: これはなにかしらオーダーがあったというより、必然的にそうなったのだと思います。 たとえば、娘の運動会のために親子で一緒に練習をして、娘がかけっこで1位を取ったら泣けるじゃないですか。『学マス』も、そういう感じです。結果的に泣けるような話になっています(笑)。 小美野氏: なんて言えばいいんだろう……「号泣する」とかでもないんですよ。 すごくじわ~~~~~っと泣けてきます。 ■「アイドルを作ってる時」って、どんな気持ちなんですか? ──個人的な疑問になってしまうのですが、『アイドルマスター』の開発者として、実際にアイドルを制作されている時はどんなことを思っているのでしょうか? 小美野氏: もうこれは本当に……ほぼ「ひとりの人間」として見て、対応しています。 たとえば、イラストの監修をする時も「ちょっとこの子にセクシーなことさせるのはやめてもらっていいですか?」という気持ちになるし、「うちの清夏、そういうので売ってないんで」みたいな。 岩本氏: そういう意味では、本当に「親」の目線ですね。 小美野氏: 一応、僕の立場的にはコンセプトをしっかり踏まえた上で、「この子はこういう方向性で行きたい」とお願いをしています。でも、やっぱりマネージャーや親のような目線ですね。 岩本氏: ウチの社内も同じですね。 ずっと「この子はこんなことしない!」と言ってます(笑)。 だから、いろんな人の目が入った結果として、ちゃんと「人」になっていると思います。 ──やはり、本当の意味で「人間」を扱うような心構えなんですね。 小美野氏: でも、元々そういう感じでしたよ。 僕が『アイドルマスター』のチームに合流する少し前くらいに、坂上さんたちの会話を聞いたことがあったんです。そこで、「本当に芸能事務所の会話してる!」と思いました。だから、「『アイドルマスター』ってすごい仕事なんだな」と、改めて実感していました。 部下になる前から坂上さんとは仲良くさせていただいていたのですが、実際に『アイマス』が自分の仕事になって、初めてこの空気感を理解できた気がします。 ──最後に、『学マス』が「コンテンツとしてどこを目指しているのか」をお聞きできればと思います。シリーズによって個別のカラーがある中で、これから『学マス』はなにを目指していくのでしょうか? 小美野氏: 「ひとりひとりのアイドルたちが活躍する場を作る」ことですね。それがゲームであれば、ライブであれ、グッズであれ……僕らがこうやって世の中に生み出したからには、責任を持ってこの子たちを世に送り出していく仕事をしていきます。 それが『学園アイドルマスター』の目指していく道で、僕の仕事でもあると思っています。 岩本氏: そこは小美野さんと一緒ですね。 アイドルひとりひとりが生き生きと活躍する場を提供することが、『学マス』の目指すべきところかなと。ゲームに限らず、各々に合った活躍の仕方もあると思いますし、その場所を提供し続けるのが大事だと思っています。 ──『学マス』のこれからが、より楽しみになりました。本日はありがとうございました!(了) 『学園アイドルマスター』は、成長の物語。 ……ということは、このインタビューを最後まで読んでくれた方には伝わっているはず。そして個人的には、今作の主なゲームシステムになっている「ローグライク」が、そこのコンセプトとかけ合わせたものであることに驚きました。 そもそも『アイドルマスター』は、「アイドルを成長させる過程」を楽しむゲーム。それはRPG的な「数値が上昇する」楽しさと、ストーリー的な「アイドルが強くなっていく」楽しさのふたつを兼ね備えたものでもある。だから、『学マス』はああいうシステムになった。 素朴な感想ですが、「よく考えられたタイトルだなぁ」と思いました。 ……と、いい感じにまとめたので、ここから余談になります。 実は私が『学マス』の存在を初めて知ったのは、2023年の年末でした。 そう、これはまだ世の中に情報が出てない頃の話。 1シーズンくらい遡って冬の日、突然『学園アイドルマスター』なる企画のPDFが手元に送られてきた。その企画書を開いた時、1ページ目から心を掴まれた。 そこには見たことも聞いたこともないアイドルたちと、全く知らない『アイドルマスター』の姿が描かれていた。この企画書だけで、もう直感的に「あっ、これ面白そう」と確信しました。本当に「楽しそうな学校のパンフレット」を見ているような気持ちでした。で、思った! 「ここに入学するぞ」と!! そして今回のインタビューで、あの時感じた「あっ、これ面白そう」という直感は間違っていなかったのだと、改めて思いました。企画書を開いた時のあの衝撃は、まさしく「アイドルに心を掴まれた」瞬間だったのだと………。 さぁ、初星学園にてアイドルたちがあなたのプロデュースを待っています! 彼女たちの成長は、あなたの手にかかっている! いますぐ『学園アイドルマスター』に入学しよう!
電ファミニコゲーマー:
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