新型マツダ3ファストバック レトロスポーツエディションはランチアを彷彿とさせる1台だった!!! 広島発のマニアックなモデルに迫る!!!
世界でも稀有なメーカー
でもって、エンジンをスタートさせて走り出す。試乗車のパワーユニットは「e-SKYACTIV G」という2.0リッターのガソリン直列4気筒と6ATとの組み合わせだ。eはマイクロ・ハイブリッドの意である。内燃機関の可能性に賭けてマツダが開発した筒内直接噴射の1997ccDOHC16バルブは内径83.5×行程91.2mmのロング・ストローク型で、13.0という高い圧縮比を実現している。最高出力は156ps/6000rpm、最大トルクは199Nm/4000rpmと、数値は驚くようなものでもないけれど、高効率、低燃費を特徴とする。 MHEVのモーターは6.9ps/1800rpmと49Nm /100rpmで、発進・加速時にエンジンをアシストしているはずだ。はずだけれど、その存在を意識することは皆無で、まるで自然吸気の2.0リッター・エンジンのような……いや、自然吸気の2.0リッター・エンジンにしては少々静かすぎる。発進時の負荷をモーターが減らしているのだろう。ほとんど無音で走りはじめる。乗り心地はダンピングがよく効いている。硬め、と、表現してもよい。215/45R18というタイヤサイズのわりには低速でもショックがないところが美点だ。ダンパーが繊細にコントロールされている……と、感じる。 首都高速・湾岸線に上がって北上し、アクアラインの風の強さにおののきながら、館山自動車道をちょこっと走る。途中、ドライブ・モードをスポーツに切り替えると、6ATが1段ダウンシフトし、2.0リッター・ガソリンの直4をグオオオオオオッと歌わせはじめた。さらにアクセルを踏み込むと、3000rpmから7000rpm近くまで、美声を積極的に聴かせてくれる。ノーマルのときとは一変。俄然、血中のペトロール濃度がみるみる上がる。2023年の新車にして、ガソリンエンジンの音色を聴かせてくれるのだからプレシャスで、プライスレスな体験である。 「レトロスポーツエディション」は特別仕様車、ということだけれど、じつはボディ色はジルコンサンドだけではないし、パワートレインの選択肢も広い。マツダ3ファストバックだと、1.5リッターと2.0リッターのガソリン、それに1.8リッターのディーゼルが設定されている。ガソリンの2.0リッターには、今回の4気筒DOHC自然吸気と、圧縮着火を実現した圧縮比15.0のスカイアクティブXもある。駆動方式には4WDもあるし、ギヤボックスに6ATだけでなく、6MTも選べる。 これで6MTだったりすると、レトロモダン&スポーティネスの度合いはさらに上がる。マツダというのはエンスージアスティックであることをみずからに課す、世界でも稀有な、じつにエンスージアスティックなメーカーなのだ。 そんなマツダが提案するレトロスポーツエディション、いいと思います。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)