インバウンド回復で急増する外国人登山者。安全な登山情報の周知に課題
新型コロナ禍が明け、日本の山でも外国からの登山客を多く見かけるようになった。旅行の情報源としてSNSが発達した現在、「登山情報が充分に伝わっていない」と関係者らは懸念する。実態を取材した。
SNSで見た山岳風景に憧れて
新型コロナウイルスの水際対策が2023年5月に撤廃され、訪日旅行が急回復するなか、外国人登山者の姿も多く見られるようになった。外国人登山者数の正確な統計はないが、ハイキングツアーなどを手掛けるW-Asobi代表で、信州登山案内人(長野県認定登山ガイド)や地域通訳案内士などの資格をもつ加集(かしゅう)安行さんはこう話す。 「もともとインバウンド集客に力を入れていましたが、去年は弊社で山を案内したお客様の半分以上が外国の方でした。コロナ禍が明けて一気に増えた印象です。NHKワールドのようなテレビ番組や、インスタグラムなどの写真で日本の山の風景を見て、問い合わせをしてくる人が多くいます」 日本の山岳風景は、外国からの旅行者にとって新鮮味が大きいという。昨年夏の日本旅行の際に涸沢経由で奥穂高岳に登ったという香港出身の女性は言う。 「SNSで見た北アルプスの山並みが美しくて、日本旅行に合わせて登山を計画しました。岩の稜線が連なっている大展望は見たことがなく、とても感動的でした」
注意情報伝わらず 遭難増加に懸念
一方、外国人登山者の急増に伴って懸念されるのが、遭難やそれに類する事態の増加だ。長野県では、去年1年間に発生した山岳遭難302件・332人のうち29人(9%)が外国人だった。そして、「遭難」として統計に表れる数字以上に危険な状況が散見されるという。 北アルプス・表銀座で燕山荘など複数の山小屋を営む赤沼健至さんはこう困惑を口にする。 「コロナ禍が明けた去年は、外国からの登山客が表銀座にも多数訪れました。ただ、情報源がSNSだと、きれいな写真だけを見ていて、日本の山の状況や注意点などが伝わっていないと感じます」 たとえば6月。山麓は初夏の陽気に包まれていても、表銀座にはまだまだ雪が残る。燕山荘は4月下旬に小屋開けを迎えるが、槍ヶ岳へ向かう表銀座の各小屋のオープンはほとんどが7月上旬で、誰もが気軽に行ける状況ではない。そんな時期にも、軽装の外国人登山者が多く見られたという。赤沼さんは続ける。 「アイゼンやチェーンスパイクは持っていない方がほとんどですし、スニーカーや長靴で来る方も珍しくない。地図も持たず『槍ヶ岳はどっちですか』と聞くような人もいます。もちろん見かけたら注意しますが、やはり危機感が伝わらないのか、『問題ない』と行ってしまう。こちらとしてはどうすることもできません。実際に遭難には至らなくても、怖いなと思う事例は何件も目にしました」 それ以外にも、山小屋でクレジットカードが使えないこと、トイレが有料であることなど、日本の登山者の間では「常識」となっていることが知られておらず、戸惑われることも多いという。