「おでん屋台」大阪は1軒、都内は2軒だけ…絶滅寸前でも「出汁自慢」の名店揃い【全店制覇】
かつて、都内にはラーメンだけで300軒近くの屋台があったという。だが、減少の決定打となったのが、2015年の都条例の規制強化だ。東京23区内にあった最後のラーメン屋台は、2024年に閉業した。だが、それでも、客を引き寄せる名屋台は、各地に今も点在している。 【写真あり】八王子「さんかく」女性店主はシンガーソングライター ラーメンと双璧をなす、おでん屋台も数件、健在だ。大阪で唯一の存在が、近鉄線の布施駅から7、8分歩くと忽然と現われる、その名もおでん屋。オープンはなんと21時からだ。 中央には丸く大きなおでん鍋が火にかけられ、ぐつぐつと煮えている。黒っぽい出汁の関東煮。鍋の中を覗き込むと、関東にはない梅焼きが目につく。卵を使った梅の花の形の練り物だ。 「梅焼きを知ってはるんは、よく関西に見えるんですか」 と、客の一人に声をかけられた。一見でもすんなり仲間入りできるムードを醸すのは、三代目女将の柳芳子さんの人柄ゆえだろう。 「初代が始めて約70年になる店です。もともと一昨年亡くなった主人の行きつけだったんですわ。初代には息子みたいに可愛がってもろうてね」 今は息子の彰人さん・裕美さん夫妻も手伝い、鉄壁のチームワークを見せる。 「仕入れや仕込みの多くは息子にまかせてますけど、出汁を取るのは私がやらなあかん」 母・息子・嫁トリオが客と交わす軽妙な会話がBGMだ。 一方、都内のおでん屋台は2軒だけになった。おでん屋台 さんかくは、三角形の敷地にちなんで命名された。 今年2月から店長を務める、なの小夕子さんは “DTMシンガーソングライター” でもあり、以前は店の客だった。 「最初に来たときは父と一緒でした。屋台は隣のお客と気さくに話せるのが楽しくてハマっちゃって、本場の博多に一人で行ったりもしました」 数ある種の中でも一番人気は地元の老舗、中野屋商店が手作りするこんにゃく。自慢の出汁をしっかり吸って、これがしみじみと旨い。 「無化調(化学調味料なし)で取っている秘伝の出汁なんで、出汁割をぜひ試してみてください」 日本酒割と焼酎割が選べるが、どちらもぐいぐいと飲み干せるスムースさ。飲みすぎ注意だ。 鶯谷の銭湯・萩の湯の横で営む天つゆおでん屋台 泥亀店主の原田貴秀さんは飲食に携わって30年以上になる。 「コロナで店の営業が見込めず、キッチンカーは高いところから商品を渡すのが気に入らなくて、屋台をやりたいなと思ったんです」 立ち呑みができて、オリジナル焼酎のハイボールなど、酒の揃えもふるっている。 「でも、常連はむしろ銭湯に通う子供たちですよ。風呂に入る前に予約していくんです。彼らに食文化の紹介ができればいいと、地元産や全国の特徴的な食材にこだわっています。『温泉なると』ならぬ “銭湯なると” は焼津製です」 おでんの出汁は、浅草の「天麩羅 秋光」の天つゆをアレンジした黒く濃厚な江戸前おでんだ。締めにおすすめなのが、有名ベーカリーのクロワッサン。濃いめの出汁に浸せば、バターの風味と溶け合ってシチュー感覚になった。 店主の創意工夫とオープンエアで飲み食いする楽しさに、 “屋台の未来” をたしかに感じた。 ■おでん屋(大阪市東成区) 場所:大阪市東成区深江南3-22-9 営業時間:21時~26時 定休日:不定休(雨の日) おでん(1品150円/300円) ■おでん屋台 さんかく(東京都八王子市) 場所:八王子市横山町12-1 営業時間:17時~23時30分、17時~22時30分(祝日) 定休日:日曜 おでん(1品120~200円) ■天つゆおでん屋台 泥亀(東京都台東区) 場所:台東区根岸2-13-13 営業時間:19時ごろ~23時30分ごろ(売り切れ次第終了) 定休日:風や雨が強い日&萩の湯の休業日など おでん(190円~) 写真・松澤雅彦、馬詰雅浩、鈴木隆祐 取材/文・鈴木隆祐
週刊FLASH 2024年11月12日・19日合併号