東大でも1.6倍に「戦略的休学」する大学生が増えているワケ 企業人事もプラスに影響か
■休学者は増加、「戦略的休学」の支援をする会社も このように、大学での休学を考えている学生は増えているようだ。 文部科学省が公表している学校基本調査によれば、学部生の休学者数は2023年5月時点で3万7832人と過去最高値を記録。15年間で65%増えた。国立大学では、東大の休学者数は24年5月時点で415人と10年間で1.6倍に増加。私立大学の中央大も23年度は477人で18年度の1.8倍に膨らむ。 さらに、休学を支援する動きも広がっている。大学生の社会起業家を育成・支援するNPO法人ETIC.(東京・渋谷)は08年ごろから休学のサポートにも取り組んでいるという。過去には「戦略的休学のススメ」などのプログラムを開いており、現在も休学などの相談を受け付けている団体だ。 広報担当者がこう説明する。 「キャンパスをいったん離れ、自分の手で留学や、何か挑戦したいという学生を支援しようという形でスタートしました。ストレート(4年)で卒業することがすべてではなく、現状へのモヤモヤとか、やりたいこと、成し遂げたいことなど何かしら思いを抱えている人たちに対して、“休学”という選択肢を通じて思いを形にしてほしいと思っています」 休学を視野に入れて起業などの相談に来る学生は、全体の1割程度だというが、「増加傾向にある」と話す。 一方、ハードルは「親や先生」だという。 「授業料などのお金を出している親御さんは、もちろん賛否あると思います。そこのハードルを越えるためにも、計画性を早い段階から持つことが大事で、一つひとつ説得できる材料を増やしていくことが非常に大切です」(広報担当者)
■専門家「現代の大学生たちは、自分のやりたいことに対して貪欲」 こうした動きについて、働き方評論家で千葉商科大准教授の常見陽平氏は、 「休学の中には、戦略的に休学する人だけではなく、経済的な理由などからせざるを得ない人もいます」と前置きしたうえで、「大学像の変化が進んでいる証拠」と分析する。 「実は、戦略的休学の動きは00年代からありました。起業や留学、趣味への没頭などという理由自体は、今とさほど変化はないと思います。ただ、その時代の大学生活は「自由にできる時間」が肌感覚として今より多くあったのに対して、今の学生たちは、早ければ2年生の秋や3年生の春からは就活がスタートしています。就活が超早期化している時代にあって、昔より「学生生活」の期間が短くなっていることは要因の一つだといえます」(常見氏) さらに、常見氏は、現代の大学生が「やりたいこと」に対して貪欲であると指摘する。 「従来は、大学をストレートで卒業し、そのまますぐ就職して定年までいる、といった人生の描き方ができていました。しかし、現代では就職先はあくまで「最初の1社」で「石の上にも“半年”」と考える学生もいて、やりたいことや優先することが個々で異なる時代です。そのなかで大学生たちが、「今、学生のときにやるべきこと」を考えて行動している結果だと思います。さまざまな不安が若者を取り巻くなかで、大学生活を楽しみつくすにはどうしたらいいのかを学生たちが真剣に考えているのだと思います」 こうした学生を採用する企業側はどんな考えなのだろうか。 「休学や留年は、企業人事でマイナスにはたらくことはなく、むしろプラスにとらえる企業も多いだろう」と常見氏はみる。 「企業人事が見ているのは、学生時代に「何をやっていたのか」「なぜその選択をしたのか」の部分です。今の時代、休学や留年に対してマイナスのイメージをもち、落とそうとする企業はないと思います。(休学は)学生たちが自信をもって自分の人生を選んでいる証拠だと思うので、いろいろな生き方をどんどん考えてほしいと思います」 就活の早期化とともに大きく変化する大学生活。入学時は一緒でも、出る時期はバラバラというのが当たり前になるのかもしれない。(AERAdot.編集部・小山歩)
小山歩