なぜ、コスト競争力があるのにコンペで勝てないのか?
エネルギーや原材料をはじめとした物価高騰を受け、企業間取引のプライシング(価格設定)に注目が集まっている。どうすれば自社の商品やサービスを「買い叩かれない」で、「きちんと利益を出す」ことができるのか。本連載では、日本企業が陥りがちなケースを分析しつつ、12業界にわたる成功事例や値上げ交渉の秘訣など、B2Bプライシングのノウハウを専門家が一挙公開した『プライシング 戦略×交渉術――実践・B2Bの値決め手法』(下寛和著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。 第2回では、取引相手のペースにはまってしまい、結果的に相手有利な結論になってしまっている食品卸や自動車部品メーカー、照明機器メーカーの典型的な事例を紹介する。 ■陥りがちなケース B2Bのプライシングは、一言でいえばコミュニケーションである。会社と会社、人と人とが対話をする中で、取引を行う商品・サービスと、その数や単価が決まる。コミュニケーションといえば私たちの中でも、得意な人、苦手な人がいる。普段の会話は流暢なのに、プレゼンや交渉になると、力を発揮できない人もいる。そのため、企業によって、担当者によって、レベルに差が出るのは自然だ。 また、B2Bの取引の場合、コミュニケーションの相手がプロの購買部門、ということも少なくない。こちらの一挙手一投足に鋭い視線を向け、少しでも安く購入する余地はないか、巧みに交渉を仕掛けてくる。当然、こちらも事前に落としどころを用意していくが、相手のペースにはまり、その結果、相手に有利な結論になってしまうことは多い。なぜこちらが主導権を握って、目標とする価格で契約を締結できないのだろうかその要因に関して、典型的な事例を見ながら、一緒に探っていきたい。 ■食品卸A社 取引先の多くは長年の付き合い。先方とのあいだには強い信頼関係を築いている会社だ。一方で、取引先との関係性が親密すぎるという点が仇(あだ)となり、毎年の定期価格交渉の場では、先方の値下げ要請に簡単に応じている。笑顔で満額回答している営業担当まで存在する。 営業の視点では、当然、先方の要請に添えずに失注する事態は避けたい。売上数量について前年超え必達の目標もある中、既存顧客とのあいだの取引量は失いたくない。そういった心理から、面倒な交渉は避け、スムーズでスピーディーな契約合意を優先している。 これは、営業=いい人、の典型的な取引のパターンである。相手に嫌われなくない、相手に喜んでもらいたい、という気持ちを値下げ以外の方法で表現できないのだ。売上必達・利益無視の目標管理指標(KPI)も自社にとって有利な交渉を仕掛けにくくしている。