広島の本通りに70年余、呉服の「叶や」移転へ 商店街入り口のランドマーク ビル老朽化で並木通りに
広島市中区の本通り商店街入り口に位置する呉服店「たのしいきもの 叶や」が今夏、ビルの老朽化を理由に本通りから移転する。終戦間もない物資不足の時代に着物の染め変えの会社から出発して70年余り。ランドマークとしても親しまれた店が去り、本通りの風景がまた変わる。 【写真】色とりどりの小物が並ぶ店内と反物を広げる桑原専務 黄褐色の外観が印象的な4階建てビル。1階は全国の工芸品や織物の展示スペースで、2階と3階に反物や草履、小物が並ぶ。さほど古さは感じないが「階段も急でエレベーターもない。耐震にも不安はあります」と、桑原未来専務は明かす。 1947年、初代の河野武雄さん(98年死去)が平塚町(現在の中区東平塚町)で着物の染め変えを始めた。戦後復興の勢いに乗り「事業をするなら本通りで」と、現在地の南隣に木造2階建ての店舗を建てた。 現在のビルに入ったのは70年ごろ。電気店だった物件を土地ごと買い取った。娘が結婚する際には、黒留め袖や訪問着などをしつらえるのが当たり前だった。前田開三社長は「えびす講のセールでは開店前から人が並んだ」と思い起こす。 呉服需要も変わった。「一等地なんだから商売を替えたら」との声もあったが、先代の智在(のりあき)さん(2010年死去)は「民族衣装をなくした国はない」と耳を貸さず、和服を通じた文化の継承を常に社員に説いた。 かつて個人商店が軒を連ねた商店街は今、中央資本のチェーン店が目立つ。約150ある店舗のうち、創業100年を超す老舗は十数店になった。一帯では、本通りを挟んで2棟の高層ビルを建てる再開発計画もある。こうした流れも、移転への背中を押した。 並木通りに構える新店舗は今より狭い。それでも桑原専務は「着物には日本人独特の色彩感覚と美的センスが込められている。魅力を知ってもらう戦略をこれからも練っていく」と話している。
中国新聞社