マツダ新型「Mazda3」に先行試乗 さらに進化した「理想の座らせ方」
あえてトーションビーム式に“ダウン”させた狙い
骨盤を支える仕組みのシートに徹底留意した以上、そのシートを保持するシートフレームとシートレールやシャシーそのものの剛性も重要だ。土台の土台の土台……と遡って行かないと、人体を安定させることはできないからだ。マツダはそれを愚直にやった。 シャシーは、横方向の環状構造に加えて縦方向の環状構造を確立して剛性を高め、同時に斜め、つまり対角線上の剛性にも留意した。
さて、リヤサスペンションはどうか? すでに多くの方がご存知のように、新型Mazda3のリヤサスペンションはマルチリンクから、形式としては格下のトーションビームアクスル(TBA)に改められた。ネットではこれを嘆く声も聞くが、ここまでの話を読んで、マツダが単なるコストダウンでTBAを採用すると思うだろうか? もちろん、複雑な仕組みを取るマルチリンクはセッティングの可能性が多い。しかしリンクの接合部に必要悪的に仕込まれるゴムブッシュは、入力方向が変わるたびにぐにゃぐにゃと動く。これがタイヤジオメトリーの管理精度を落とすことは厳密に言えば防げない。リンクの数が増えれば増えるほど精度管理は難しくなる。 あるいは、セッティング領域で意図して仕込む横力によるトーイン(タイヤのつま先を内股にする角度変化)の仕掛けも同じだ。クルマに自転運動を起こそうとするドライバーの操作に争って、リヤタイヤが踏ん張るシーンが起こりうる。トーイン変化のトリガーが単純な横方向の力だけである以上、今局面としてドライバーが後輪に踏ん張ってもらいたいのか、あまり踏ん張らずに自転運動を素直に受け入れて欲しいのか、を判別する機能は付いていない。「だから余計なことはさせない方が、人の運転に素直に追随する」とマツダは考えた。ならばトー変化とキャンバー(タイヤの倒れ角度)変化のコントロールを企図するマルチリンクは必要ない。
横力入力時のトー変化は実質的には0(ゼロ)度にしつらえてある。そのためにはTBA全体の剛性が高く取られていなくてはならない。入力でリヤサスペンション全体が不規則に変形してしまっては、トーの管理ができないのだ。 マツダは、H型のトーションビームの横棒にあたるねじりばねに新しいアイディアを注入した。現在パテントを申請中とのことだが、中央を細くして、両サイドに向かって太くなっていく新たな形状を採用。ちょうどメガホンを2つ繋げたような形をしたこのねじりばねは、圧縮方向では高い剛性で強く両輪の位置を支える。TBAは形状的に左右のトレーリングアーム(人間のバタ足の様に動くアーム)をこのねじりばねで連結するものなので、横からの入力にはねじりばねをつっかい棒として機能させて高い剛性を確保し、左右輪が別々にストロークする時だけ、ばねのたわみ分だけ左右を独立して動かしたい。新形状によってその性能を高めた。ちなみにこれによってリヤタイヤの支持剛性は78%も高めることに成功したという。