『潜入兄妹』貴一と優貴に立ちはだかる大きな壁 完璧なチームワークを成立させた“ハコ”
朱雀(白石聖)に拉致され、前回騙し討ちにした詐欺師の情報をどのようにして得たのか詰められる貴一(竜星涼)と優貴(八木莉可子)。第1話のラストでは始末屋の櫛田(フェルナンデス直行)からネイルガンを向けられた貴一だが、今度は電動の丸ノコで首を切断される一歩手前。警察と通じているという疑いをかけられ→物騒な方法で命の危険にさらされ→うまい言い訳で難を逃れ→そして信頼を得るためのミッションをこなしていく。それがこのドラマの前半の基本的なエピソード構成といったところか。 【写真】掃除業者に変装する貴一(竜星涼)と優貴(八木莉可子) 10月19日に放送された『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系)は第3話。“幻獣”に潜入中の兄妹が朱雀から指示されたのは、特殊詐欺を行う上で必要不可欠な“名簿”を用意すること。もともと使っていた名簿屋が突然死亡し、代わりにその教え子である重信という人物に依頼した朱雀だったが、重信には平気で人を裏切るという噂がある以上そう簡単に信用することができない。そこで2日以内に貴一たち兄妹と重信にそれぞれ“名簿”を用意させ、どちらか金になる方を買い取るというコンペを持ちかけるのである。 しかしここで兄妹は大きな壁にぶつかることとなる。“名簿”に記されるのは、詐欺のターゲットになりやすい罪のない高齢者の情報。それを幹部である朱雀に渡すということは、「騙すのは悪人だけ」という潜入捜査官だった父・貴司(半田周平)から受け継いだ信念を破ることになってしまう。そこで貴一は、いわゆる“オレオレ詐欺”ではなく、強盗や横領などで捕まった起訴前の犯罪者に弁護士のふりをして接近し、彼らが隠し持っている金を出させる“示談金詐欺”の名簿を作ることを画策する。 とはいえ今回のエピソードでは、その“示談金詐欺”の青写真が語られるだけにとどまり実行はされない。あくまでもフォーカスが当てられるのは、重信との対決だ。前回のエピソードでは詐欺師に大金が手に入る話をちらつかせて騙し取るというシンプルなコンゲームを繰り広げた貴一たちだったが、今回は重信(土村芳)の仕掛けた罠に嵌り、名簿作成のための計画を掠め取られたことで逆に重信に罠を仕掛け返す。詐欺師vs詐欺師の構図であることには違いはないが、金銭ではなく情報を得る目的での騙し合いという点で、スパイ映画のような攻防が見せ場となる。 同時に“ハコ”内における役割分担が、しっかりと機能する点も見逃せない。出入りの清掃業者から岩木(徳井優)が得意のスリ技術で社員証を手に入れ、文書偽造を専門とした成瀬(伊藤あさひ)が兄妹の社員証を作成。土器(岡井みおん)が制作した清掃業者のユニフォームを着て検察庁に侵入。さらに重信に逆襲するための罠を張るために優貴が居所や電話番号を調べ上げ、芦田(呉城久美)が朱雀のしゃべり方を模して誘い出す。ハコ長の高津(入山杏奈)は上との連絡役であり、もちろん実行役は貴一。 第3話にして完璧なチームワークを成立させたとなれば、“仕事”を終えて乾杯をしたのち、優貴が彼らを仲間として意識してしまうという流れも必然であろう。潜入捜査官としての立場である以上、決して心を許してはならない相手だとわかっていても、ピンチを共に越えることでついつい同情心が芽生えてしまう。それが今後のエピソードにおける展開を左右させ、ドラマ性を司る一要素となりうることは、こうした“潜入劇”の醍醐味のひとつでもある。
久保田和馬