ウォシュレットや炊飯器は「序の口」...ジョージア大使の「最強のおもてなし術」とは?
<日本育ちの大使にとって日本でジョージアを知ってもらい、ジョージアで日本を知ってもらうことは自らのアイデンティティに不可欠。両親から受け継ぎ、日本で培った「おもてなしの神髄」について>
大使という職業柄、人に会う機会が多いのだが、ジョージアからの訪日客に日本を案内することも重要な任務の1つだ。 【画像】ジョージア大使の記事執筆の報告X(旧ツイッター) どこに連れていけば喜んでもらえるか、私の行きつけのお食事処(どころ)に連れていこうか、日本のどんなお土産がいいのか......。そんなことを考えながら日本を案内し、相手が喜ぶ姿を見ていると、両国をつなぐ、この仕事にやりがいを感じる。 ただし、日本はユニークで独特な商品を数多くそろえている国だ。訪日客もそれを知っているため、私はいつも「無理難題」を突き付けられている。しかし、最初は苦労したものの、その要求に応えるだけの「実力と実績」を私も積みつつある。 ウォシュレットや炊飯器は序の口。日本製の包丁にジョージアの首相の名前をカタカナで名入れして持ち帰った人もいた。政府要人クラスになると当然のように盆栽や日本刀をお願いされる。そのため交渉と購入、そして輸出の手続きは今ではお手の物だ。 また、日本は薔薇(ばら)の品種改良が盛んで種類が豊富なため、薔薇コレクターから「禅ローズ」という品種について問い合わせを受け、購入を手伝ったこともある。その「禅ローズ」がジョージアで咲いているところをいつか見てみたいと思っている。 他方、いつも困る買い物もある。それはスマートフォンだ。 ある時、家電量販店に連れていってほしいと頼まれ、店の前で5分だけ待つように言われたのだが、いくらたっても戻ってこない。どうやらスマホを購入しようとしたらしい。 通常、日本のスマホはキャリア(通信事業社)と契約することが前提になっている。また、店頭に見本があっても取り寄せが必要であったり、仮にキャリアと契約するとしても手続きが煩雑だ。 スマホを買いたいだけなのに購入できないことに釈然としないジョージア人に対して、「とにかく買えないのです」と言うしかない。そういった日本の事情を説明して納得してもらうのも大変なため、「あまり多くを聞かないでほしい」という雰囲気を醸し出してその場をしのぐこともある。 というわけで、スマホは「お土産界」の鬼門なのだ。 このようにさまざまな要望をかなえることは時に骨が折れる。しかし、それを含めても日本での滞在に満足して帰国してもらえることはうれしいものだ。 ただし、私は生まれながらにしての「おもてなしの人」ではない。今でも日本に暮らすジョージア人は100人にも満たないが、1990年代初頭にはほとんどいなかった。そのため訪日するジョージア人にはレジャバ家がまず紹介され、わが家に連絡が来た。 そしてその訪日客を両親が自宅でもてなし、日本を案内して回っていたのだ。見知らぬ客人を手厚くもてなす両親に当時の私は違和感を覚えていたものだ。 しかし、今となっては当時の両親の気持ちがよく理解できる。それはジョージアと日本の両国を愛していたからであろう。さらに私の場合は、自分のアイデンティティーはジョージアと日本の両国から成り立っており、どちらかが欠ければ私ではなくなる。 だからジョージア人に日本を知ってもらい、日本人にジョージアを知ってもらうことは私自身にとって必要な営みなのだ。 頼る人がいない遠く離れた国で案内役となり、頼れる存在になれたのであれば、相手の記憶に深く刻まれる。そしてそれが友情の礎になる。 両親から受け継いだ「ジョージア流おもてなし」と日本で育んだ「日本流おもてなし」は今、私の仕事で強力な武器として生かされている。私にとって友情が財産であり続けてきたように、外交にとっても友情こそが財産なのだから。
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)