デンゼル・ワシントンの極悪ぶりを堪能 『グラディエーターII』はパワフルな痛快娯楽活劇だ
ローマ帝国の侵略で妻を失ったルシアス(ポール・メスカル)は、復讐を果たすために闘技場で命を懸けて戦う剣闘士(グラディエーター)となる。一方、奴隷から大商人に成り上がった男マクリヌス(デンゼル・ワシントン)は、ローマ帝国を我が物にせんと謀略を張り巡らす。そしてローマ帝国を治めるカラカラ帝(フレッド・ヘッキンジャー)とゲタ帝(ジョセフ・クイン)のW皇帝は、何も知らずに遊びほうけていた……。 【写真】『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』場面カット(複数あり) まず大前提だが、本作『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024年)に歴史的な正しさを期待してはいけない。私はローマの歴史に対しての知識が非常に薄っぺらだが、それでも「いや、こんなことは起きてないですよね?」と察しがつくことが満載だ。あくまでローマ帝国や実在の人物をモチーフにしたフィクションとして捉えるべきだろう。もう一つ付け加えるなら、本作はタイトルからも分かるように『グラディエーター』(2000年)の直接の続編だ。前作を観ていなくても何となく話は分かるようになっているが、予習しておいた方が楽しめるのは間違いない。 さて、本編である。物語は前作から数十年後を舞台に始まる。そして主人公ルシアスの絵に描いたような幸せが、開始5分でブチ壊される奇跡的スタートダッシュ。大戦争のすえにルシアスはローマ帝国軍との戦いに敗北し、奴隷としてローマに送られる。田舎のコロッセオに放り込まれたルシアスを待っていたのは、まさかのvs殺人猿軍団だった。ちなみに、この猿軍団は監督のリドリー・スコットの趣味なのか、妙にヌルっとした質感である。同監督が手掛けた『エイリアン:コヴェナント』(2017年)のネオモーフっぽい動きで襲ってくるが、ルシウスは手を鎖に繋がれたまま猿軍団を倒す。その腕っぷしに惚れ込んだマクリヌスは、彼をローマのコロッセオに送り込み……と、ここまで書いたが、これが序盤の序盤である。つまり本作は展開が異様に早いのだ。大河ドラマで1年かけてやるような話を、2時間ちょっとにギュッと濃縮している。悪くいえば駆け足感が否めないが、そのスピーディーさに乗れたなら、本作は楽しめるはずだ。本作は最初から最後まで、この調子で突っ走る。その手触りは、いわゆる歴史大作というより、シンプルなアクション映画に近い。 とにかく、本作はルシアスがいろんな敵と戦いまくる。冒頭の砦での籠城戦に始まり、殺人猿軍団、剣闘士の師匠、サイに乗った男、コロッセオに水を張ってサメを放ったうえで行われる模擬海上戦(風雲たけし城感がある)、各種タイマン……などなど。戦いのバラエティに関しては、間違いなく前作より上だ。しかも素手での戦いも妙にキレがよく、近年の香港アクションや軍隊格闘技系にはない、パワフルなレスリング的な魅力がある。大柄な男たちが力いっぱいぶつかり合い、一瞬のスキを突いて相手を崩し、投げる。飾りっ気はないが、これはこれでアクション的に新鮮だなと感心した。 そして何はなくともデンゼル・ワシントンである。本作でルシアスの前には、何人もの敵が立ち塞がる。ドグサレ外道小物感が光るカラカラ&ゲタ帝も良いし、ルシアスの故郷を焼きながら、しかし人間として真っ当な心を持つアカシウス将軍(ペドロ・パスカル)も魅力的だが、野心を胸に暗躍するデンゼルのマクリヌスが非常に良い。『トレーニング デイ』(2001年)や『アメリカン・ギャングスター』(2007年)などで見せた、極悪デンゼルを存分に堪能できる。特に終盤に用意された無茶苦茶な演説シーンは忘れがたい。そりゃデンゼルにあんな“カマし”をされたら、背筋をピンと伸ばして立ち上がるしかないだろう。そして良くいえば権謀術数に長けた姿、悪くいえば小細工勝負のデンゼルが存在感を発揮するほどに、文字通り身ひとつで、正面から巨悪に立ち向かうルシアス役のポール・メスカルも輝く。堂々たる剣闘士っぷりは、胸がすくようだった。剣と筋肉、そしてド根性で巨悪に挑む剣闘士の姿は、観ていて単純にカッコいい。 リドリー・スコット監督、御年86歳。そう、86歳なのである。人生100年時代とは言うが、それにしても86歳でこれを撮るかと驚くばかりだ。やや駆け足である点が悔やまれるが、本作は直球かつパワフルな痛快娯楽活劇である。
加藤よしき