上川隆也がドラマ「宮本武蔵」で見せた、イメージにない荒々しいキャラクター
近年では、ドラマ「遺留捜査」シリーズ(2011年、テレビ朝日系)でのマイペースで変わり者の刑事・糸村聡の印象が強い上川隆也。クールで聡明な役が多く、本人自身も同じかと思いきや、人気バラエティーにレギュラー出演したり、プレゼンターとして出演するなど、三枚目な人柄で多くのファンに愛されている俳優だ。 【写真を見る】鋭い眼光の上川隆也 上川といえば、演劇集団キャラメルボックス出身で、同劇団の看板俳優として活動する中、NHKドラマ「太陽の子」(1995年、NHK総合ほか)で一躍有名に。その後、大河ドラマ「功名が辻」(2006年、NHK総合ほか)で主演を務めるなど、映画、ドラマ、舞台で数々の作品に出演し、それぞれの分野でさまざまな賞を受賞している"叩き上げ"の名優の一人だ。若者たちには"マイペースで変わり者の刑事役"のイメージだろうが、荒々しく粗野な役も"ハマり役"レベルで楽しませてくれる実力派であることを知っていただきたい。そんな現在のイメージとはかけ離れた役柄を演じる上川が観られる作品がドラマ「宮本武蔵」(2001年、テレビ東京系)だ。 同ドラマは、2001年にテレビ東京系の「新世紀ワイド時代劇」として10時間に渡って放送された超大作で、粗暴な悪ガキだった宮本村の武蔵(たけぞう)が、宮本武蔵と名乗って「剣聖」と称されるほどに名を上げていく半生を四部に渡って描いた、吉川英治の同名小説をドラマ化した時代劇。上川は武蔵を演じている。 四部とも見ごたえのある作品なのだが、ここでは第一部を推したい。第一部は「野生児たけぞうから武蔵へ」という副題で、身寄りがなく粗暴な悪ガキだった武蔵(上川)が名を上げるために友人の又八(渡辺いっけい)と関ヶ原合戦に西軍の一員として参戦するところから始まる。西軍の敗戦で命からがら逃げた2人は、お甲(池上季実子)と朱実(鈴木紗理奈)という女性2人に匿われた後、又八はお甲と一緒になり、武蔵は一度宮本村に帰還。だが、徳川から追われている武蔵は沢庵和尚(西村敏行)をはじめとする村人たちに捕縛され、木につるし上げられる。その後、又八の許嫁だったお通(鶴田真由)に助けられ、2人で村から逃走。途中、お通を逃がすために捕まってしまった武蔵は姫路城内に幽閉され、3年間の修行を強いられる。3年後、城主の池田輝政(市川左團次)から「宮本武蔵」という名をもらい、城から出て"天下一の兵法者"を目指して旅を始める。 この武蔵(たけぞう)時代が描かれる第一部では、上川はクールとは程遠い役どころを熱演。山中を駆け巡り、口が悪く、誰も信用せず疑心暗鬼にとらわれ、粗野で荒々しくガサツなキャラクターとして武蔵を演じており、一目には上川だと分からないほど。中でも注目すべきは、第一部の2時間で一貫している"ギラギラとした獣のような目"だ。この目が、上川のイメージとは重ならないキャラクターを演じる上での説得力を与えている。 身寄りがないため、生きるため、名を上げるために、身一つで立身出世を目指す若者ならではのバイタリティーと"飢え"を目で表現することで、「剣聖」となっても"ブレない芯"を、日本刀のように丁寧に"鍛えて"いっているのが分かり、第二部からの「宮本武蔵」時代へのつながりをも感じさせてくれる。さらに、3年の修行を終えた後の目の表現を変えることで、人間的な成長を表現しているところは圧巻。言葉使いや所作という表層的な芝居だけでなく、自在に操る目の表現こそ名優たるゆえんといえるだろう。 粗野で荒々しいキャラクターを演じた"珍しい"上川の、芝居に説得力を与えている目の表現に注目しながら、彼の演技力の深淵に触れてみてほしい。加えて、第二部からの「宮本武蔵」としての演技との違いも探してみてはいかがだろうか。 文=原田健
HOMINIS