カープの新井が“黒田シック”をようやく克服?!
昨季のセ・リーグMVP、広島の新井貴浩(40)が、宮崎・日南での2軍キャンプに居残って懸命の打ち込みを続けている。盟友だった“男気”黒田博樹氏が、昨季限りで電撃引退。キャンプ初日には、「ここに黒田さんがいないのは寂しいなあ、とつくづく感じる」と、ホームシックならぬ“黒田シック”にかかっている複雑な心境を口にしていた。 これまでは、黒田の練習に取り組む姿勢と、試合では相手に向かっていく気迫を見せることでチームはひとつにまとまり、新井は、その黒田をフォローするようにリーダーシップを発揮していた。だが、昨年10勝8敗を挙げたチームの精神的支柱がいなくなったのだ。 新井は、「代役は僕が務める」と意気込んでキャンプインしたが、リーダーの責任をたった一人で背負わねばならなくなった。そういうプレッシャーも、“黒田シック”につながっていたのかもしれない。だが、新井は「もうその気持ちは吹っ切れました」とキッパリと言う。 「いつまでもあると思うな、黒田さん……なんです。もう黒田さんがいたらなんて言っている場合じゃない。僕もそうだし、黒田さんの抜けた穴をどう埋めるかを託されているピッチャー陣もそう。選手みんながよくわかっています。昨季もマエケンが抜けてどうするんだ? と言われましたが、全員で埋めましたよね」 確かに昨季は、ポスティングでドジャースに移籍した前田健太が、前年の2015年に残した29試合に先発、206回3分の1を投げて15勝8敗という数字を綺麗に埋めて優勝を飾った。 数字だけで比較すれば、黒田の24試合先発、151回3分の2、10勝8敗の成績を埋めるのは、マエケンのそれよりはハードルが低いのかもしれない。だが、前述したように黒田には、チームを内側からひとつにまとめるという数字に現れないプラスアルファがあった。結果と共に、背中と行動でチームを引っ張ったのである。
だからこそ新井は高ヘッドコーチから「調整は任せる」と言われると、あえて日南残留を選んだ。 「自分では調整が遅れていると感じているので打ち込みたかったんです。沖縄の1軍に合流するとゲーム中心になるので、しっかりと振り込む時間を作ることが難しくなりますからね。それと、この時期の沖縄は雨が多いでしょう。キャンプの一日、一日の積み重ねが、連覇、そして果たせなかった日本一という最終目標につながっていくんだと考えています」 厳しい環境に身を置き開幕に備えて自らを磨く。1軍にいなくとも、それが黒田がいなくなったチームに伝えたい新井イズムなのだ。ベンチ前で行う全力のロングティーには鬼気迫るものがあった。 MVPに評価された昨季の打率.300、19本、101打点、得点圏打率.327は「出来すぎだ」とも言われる。だが新井は、「去年は去年、もう終わったことです。ただ何も変えない。しっかりと追い込み、怪我することなく万全な形で開幕を迎えるだけ」と、2年目の不安説を一掃した。 昨季は、4番を67試合打った。だが、「打順は与えられた場所で。どこでもやります」と、40歳にしてチーム貢献の精神を忘れない。 「カープに呼び戻してもらった2年前の気持ちを忘れず、カープのため、自分のできることを精一杯やるだけ」。黒田シックを乗り越えた新井のユニホームは今年も泥だらけだった。 (文責・駒沢悟/スポーツライター)