【クマが捕獲された現場に密着】軽井沢の安全は自分たちが守る! クマ対策のプロ集団
一頭のクマに起きた悲劇痛感した「教育」の大切さ
別のポイントに向かっている途中、車の中に搭載していた受信機が急に大きな音を鳴らし始めた。 「近くにいるようですね」 車から降りた関さんがアンテナを振る。「ピッピッ」という受信機の音がさらに大きく聞こえる。 「ここから200~300メートル先くらいに『ニコパ』がいますね。258番目に捕獲されたクマです。この先には沢があるのですが、昨晩もそこで過ごしていました。ニコパも私たちの存在を敏感に察知していることでしょう。『また、来たか』とね」 現場は多少の月明かりこそあるものの、周囲は闇に包まれている。200~300メートルとはいえ、ニコパが走ってきたらどうするのか、考えただけでも恐ろしかった。 「私も最初はとても怖かったですよ。でも、クマに対する理解が深まったことで、多少は恐怖が和らぎました」 取材中、関さんから人間とクマとの悲しい出来事を聞いた。 「かつて『ジョイ』というクマがいました。ジョイは軽井沢町内をよく動き回るクマでしたが、昼間には目撃されず、ごみを漁ることもないクマでした。でも、正しい知識のない方が、バターを塗ったパンをジョイに与えてしまったことで、悲劇が起こりました」 餌付いたジョイは「人間に近づけば美味しいものがもらえる」と覚えてしまい、人間との接触リスクが格段に跳ね上がった。最終的に、ジョイは捕殺された。関さんは言う。 「苦渋の決断でした。その方には何度も餌付けをしないようお願いしていたんですが……。なぜ未然に防げなかったのか、悔やんでも悔やみきれません。私は元教員ですが、教員をしていた時よりも、『教育が大事』だと、最近つくづく感じています。 事故のない状態を維持することは本当に大変なことです。何かが起きてしまえば、一気に信頼を失いますから。年々、クマに対する目が厳しくなっている分、さらに身を引き締めてこの町を守り続けます」 教員の世界から転職して3年半。クマへの温かい眼差しを持つ関さんは、友人たちから「今、何をしているのか?」と問われたら、「目の下に〝クマ〟をつくりながらクマを追いかけているよ」と冗談を言うこともあるという。一方で、軽井沢の安全は自分たちが守っていくという、プロフェッショナルとしての確かな矜持があった。
仲上龍馬