「#トラツバロス」多発…『虎に翼』に視聴者を虜にした“米津玄師の主題歌”と劇中歌の「底力」
9月27日に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説『虎に翼(トラツバ)』。放送が終わっても“トラツバ談義”に花を咲かせる視聴者が続出し、日を追うごとに”トラツバロス”を訴える声が高まっている。 【写真】伊藤沙莉ら出演者大集合!打ち上げ写真と共に振り返る『虎に翼』の愛しき人たち 『虎に翼』はなぜ、これほどまで視聴者に愛されているのか――。 今更だが、今作は日本初の女性弁護士で、後に裁判官を務めた三淵嘉子の人生を描いたドラマである。 しかし、閉鎖的な法曹界を上り詰めていく、単なる女性の社会進出の物語ではない。原爆裁判、尊属殺への違憲判決など、今までの朝ドラでは触れてこなかったテーマ。さらに、性的マイノリティーや夫婦別姓といった今日的なテーマにも光をあてる。 ◆100年先に思いをつなぐドラマ 聖域なきストーリー展開にも注目が集まった。さらに人気アーティスト・米津玄師が手掛けた主題歌『さよーならまたいつか!』も、“トラツバ”ファンを増やす一翼を担った。 「米津さんは主題歌について、『台本を読んでいくうちに背筋が伸びた。生半可な気持ちでは向き合えない。自分が感じたことがある理不尽や怒りを思い起こしながら、寅子の気持ちになって書き上げた』と打ち明けています。出来上がったポップでダンサブルな主題歌は、法曹界という獣道を生きるヒロイン寅子の応援歌。歌詞とストーリーの高いシンクロ率にも目を奪われました」(制作会社プロデューサー) 法曹界という“獣道”でつまずき傷つく寅子に、今世で叶わない夢は未来に託そう――そんなメッセージを送って、心折れそうな寅子を励ます米津。しかし100年後の今、寅子たちの“雨垂れ石を穿つ”思いは、果たしてこの世の中を変えることができたのか。 残念ながらそうとは言い切れない。そんな寅子たちの思いを受け継ぐ我々世代を叱咤激励する歌でもあった。 そしてもう一曲。”トラツバ”には、主題歌に勝るとも劣らない名曲がある。 それが、今作の音楽を担当した森優太が作詞作曲を手掛け、スチュアート・マードックが歌う『You are so amazing』である。 「心が折れ、立ち上がることもできないシーンでヒロインたちにそっと寄り添ってくれる主題歌に勝るとも劣らない隠れた名曲、それが劇中歌として登場する『You are so amazing』です。歌っているスチュアート・マードックは、スコットランドを代表するバンド『ベル・アンド・セバスチャン(ベルセバ)』のボーカル。すべての女性と、生きづらさを抱えている人たちに送るこの曲を“世界で一番歌ってほしい人は誰だろう”と考え、浮かんだのがスチュアート・マードックだったと、森さんは告白しています」(前出・プロデューサー) ◆原爆裁判で視聴者に寄り添った挿入歌 この曲を聞いて真っ先に思い出すシーン。それはやはり、夫の優三(仲野太賀)が出征していく第40話(5月24日)。そして夫の戦死を知り、寅子が心の底から涙を流す第44話(5月30日)ではないか。 戦争という抗うことのできない悲劇に打ちのめされてゆく第40話から第44話までの放送回では、このメロディが何度もヒロインや視聴者の哀しみに寄り添い続けていた。 さらに、もうひとつ。忘れられない放送回がある。それが原爆裁判の行方を描いた第23週だ。 特に第114話(9月5日)では、吉田ミキ(入山法子)が被爆者の悲しみを弁護士・山田よね(土居志央梨)たちに打ち明けるシーンが登場する。しかし、よねに、 「声を上げた女に、この社会は容赦なく石を投げてくる」 と説得され、ミキは証言台に上がることを涙ながらに断念する。 代わりに弁護士・轟太一(戸塚純貴)がミキに託された手紙を法廷で読み上げ、被爆体験を、被爆者の思いを切々と訴えてゆく。この胸が締め付けられるようなシーンで被爆者に、多くの視聴者に寄り添ったのが『You are so amazing』。 観ていた私は、8年8ヵ月かかった原爆裁判の判決を待ちわび、判決直前に白血病で息を引き取った祖母のことを思い出し、涙が溢れた。 翌日に放送された判決の場面。主文後回しで、“判決理由”が語られ 「政治の貧困を嘆かざるを得ない」 「原爆投下は国際法違反」 という言葉が、裁判官の口から放たれる。この時こそ、雨だれが石を穿った瞬間ではなかったか。 ヒロインたちの背中を押し続けた応援歌『さよーならまたいつか!』。そして折れた心に優しく寄り添った『You are so amazing』。この2曲がなかったら、朝ドラ『虎に翼』の評価は、また別のものになっていたかもしれない。 取材・文:島右近(放送作家・映像プロデューサー)
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