奪われた友の未来返して 今でも送るLINE 北新地放火殺人3年、友人犠牲の男性
26人が犠牲となった大阪・北新地のクリニック放火殺人事件は17日で発生から3年。クリニックに通院していた友人の男性=当時(37)=を亡くした大阪府門真市の作業療法士、北口一平さん(41)は、心に喪失感を抱えたままだ。生前の友人からは、たわいもないLINE(ライン)の会話で幾度も励まされた。「友人にはこれから先、楽しい時間がたくさんあっただろう。奪われた未来を返してほしい」。こう訴える。 【動画も】北新地放火 どんな事件だったのか 《最近どうしていますか?》 《ご飯でもいきましょう》 犠牲となった友人のラインに今でもメッセージを送ることがある。「もしかしたら返事が来るんじゃないかって…」 友人とは、約6年前に通っていた大阪市内の医療系専門学校の夜間部で知り合った。2人とも病院でのリハビリの仕事を志しており、同世代ということですぐに打ち解けた。励まし合い、よく食事にも行った。学校では自分たちより一回り若い世代とともに切磋琢磨(せっさたくま)する日々だった。 「友人にはまだ幼い子供2人がいて、『家に帰ると玄関で抱き付いてきてかわいいんですよ』なんてうれしそうに話していた」。卒業後は頻繁に会うことはなかったが、ラインや電話で近況報告をし合った。友人も介護士となり、頑張っているだろうなと思っていた。 事件の1年ほど前、電話がかかってきた。「介護士の仕事を辞めたんです。職場の環境が合わなくて。心が疲れちゃってクリニックにも通おうと思う」。驚いたが、クリニックで職場復帰のプログラムを受けると聞き、「頑張ってくださいね。落ち着いたら、会いましょう」と励ましたという。 最後に会ったのは、事件半年前の令和3年春。お互い近況報告をして励まし合った。 友人が犠牲になったことを知ったとき。足元から崩れ落ち、言葉にならない声で叫んだ。 現場にはずっと行けなかったが、昨年12月17日の事件発生日に初めて訪れた。多くの花束が手向けられた路上に手を合わせ、500ミリリットルのペットボトルの水を供えた。「未来ある人の命が理不尽に奪われたことには憤りしかない」。心の整理はできていない。 病院で働く今、悲惨な事件が二度と起こらないよう、防火対策を官民で進めていく必要性を一層感じている。「もし火災が起これば、患者さんをどう守るかを常に考えている。子供には何かあればまずは命を守ってほしいと伝えている。3年たったが、風化してほしくない」。こう強調した。(鈴木源也)