「ブラジル映画祭2024」東京と名古屋で開催
アルバム「エリス&トン」録音の記録映像をベースにしたドキュメンタリー作品も上映
3月8日(金)から「ブラジル映画祭2024」がスタートした。近年に公開債れた新作のブラジル映画6作品が上映される。 東京ではユーロスペース(渋谷)で14日(木)まで上映が行われ、その後、名古屋のミッドランドスクエアシネマで3月16日(土)~20日(水)に開催される。 「エリス&トム(原題:Elis &Tom – So Tinha De Ser Com Voce)」(監督:ホベルト・ヂ・オリヴェイラ、ジョン・トビ・アズライ)は、1974年に、レーベルとの契約10周年を祝してフィリップスがエリス・ヘジーナへのプレゼントとして制作された、トン・ジョビンことアントニオ・カルロス・ジョビンとエリスの共演アルバム「エリス&トン」の制作にまつわるドキュメンタリー映画。 アルバム「エリス&トン」の録音は、当時トンが合衆国に滞在していたためロスアンジェルスで行われている。 監督に名を連ねているホベルト・ヂ・オリヴェイラは、1974年当時、エリスのマネージャーに就任したばかりだった人物。そもそもこのレコーディングを映像で記録する計画は、「歴史的な瞬間であり、記録する必要があるとわかっていた」と語るホベルトのアイディアだった。 そしてもうひとりの監督ジョン・トビ・アズライは、当時、外交官であり、UCLAで映像制作について学んだ経験から撮影クルーに加わった人物。 映像の一部は当時、TVバンデイランチスで放送されたが、残りはホベルトの手で保管されていた。つまりこの映画は、レコードの録音当時に製作された記録映像を当時の当事者の手でドキュメンタリー映画として構成された、いうなれば50年かけて制作されたドキュメンタリー映画といえる。 エリスの伝記「台風エリス」の中でも、電気楽器の使用に抵抗を持っていたトンと、エリス、アレンジを担当した、当時のエリス恋人でもあったセーザル・カマルゴ・マリアーノが、録音に関する打合せの段階から友好的ではなかったことが記されているが、絵映画では、アルバムの制作を通じて彼らの対立が解消していった軌跡が語られていく。 「ピシンギーニャ‐愛情深い男(原題:Pixinguinha – Um Homem Carinhoso)」(監督:デニッシ・サラセニ)は、サンバをはじめとする現代のブラジル音楽の基礎を築いた功労者といえる音楽家ピシンギーニャの伝記映画。 1919年に結成した8人組の楽団オイト・バトゥタスで活動した時代から晩年まで、音楽家としてのピシンギーニャの軌跡と、妻ベチーとの家庭を営む一人の男性のとしての生涯とを並行して描く。 アウミランチ、ドンガ、シニョー、ハダメス・ニャッタリ、カルメン・ミランダなど、同時代に活躍したサンバやショーロをはじめとするブラジル音楽のキーパースンたちも登場する。 ピシンギーニャにはシンガーでもあり俳優としても名高いセウ・ジョルジ、ピシンギーニャの妻ベチーにはタイース・アラウージョが扮している。 「プレーザ(原題:Pureza)」(監督:へナート・バルビエリ)は、北東部マラニョン州の貧困地域で生活するシングルマザーのプレーザ・ロペス・ロヨラを主人公にした、実話をもとにしたドラマ。 貧しい生活から抜け出すために鉱山へ出稼ぎに出たまま消息を絶った息子のアベウを探し続ける道中で、とある村の農場で働き始めたプレーザは、勧誘された労働者が監禁状態で奴隷労働同然の扱いを受け、違法伐採などが行われている現場を目の当たりにする。 現代に息づいている奴隷労働を強いる権力に立ち向かい、息子を見つけるという信念も貫いたプレーザの生涯が描かれる。 「エドゥアルドとモニカ(原題:Eduardo e Monica)」(監督:ヘネー・サンパイオ)は、80年代にヒットした、ロックバンド、ヘジアォン・ウルバナの同名曲(ヘナート・フッソ作)を題材にしたロマンティック・コメディ。 ブラジリアで、パーティで知り合い恋に落ちたレヴァ(ガブリエウ・レオーニ)とモニカ(アリッシ・ブラーガ)は、性格も正反対で、年齢にも差がある二人は、周囲からも仲を反対されるが、自分たちの想いをつらぬこうとする。 「サウダージを胸に(原題:Saudade Fez Morada Aqui Dentro)」(監督:アロウド・ボルジェス)はブラジル内陸部の小さな町に住む15歳の青年ブルーノ。退行性疾患のため視力を失いつつあるブルーノが、さまざまなことに直面しながら過ごす思春期を描く。 「天使たちのテーブル(原題:O Clube dos Anjos)」(監督:アンジェロ・デファンチ)は、ブラジル人作家ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモによる同名著作を原作とする映画。 長年、月例の集いを行ってきた7人の友人同士の集まりピカジーニャ・クラブは、謎めいた料理人が現れて、彼らに豪華な宴会を開催するまではいつもどおりの平和な集いだった。 腹いっぱい食べて眠ってしまった彼らが目覚めたとき、仲間の一人が死んでいることを知った彼らは…。 (文/麻生雅人)