「手錠は規則だから外せない」救命のための医師からの要請に応じない警視庁の非道な振る舞い
心臓の病気で救急搬送
2023年8月5日午後8時45分頃、その日の痛みはそれまでと明らかに違っていた。 違和感が痛みに変わり、胸の真ん中から背中へ。顎や首、耳の下にしびれが広がる。 ニトロ舌下錠を2回服用しても症状が治まらない。 「これは本当にヤバイ」。消灯時間が過ぎた午後9時過ぎ、鉄格子の前にいる原宿署員を呼んで声を絞り出した。 「救急車を呼んでほしい」 東京消防庁への情報開示請求で得た渋谷消防署の「小隊活動記録票」などによると、原宿署からの通報時間は午後9時25分。救急隊は17分後に到着し、日下さんを6階の留置場から台車付きの担架(ストレッチャー)で運び出そうとした。 ところが、急ごうとする救急隊員を静止し、原宿署員が日下さんに前手錠をはめ、捕縄を使用。救急車には女性の巡査部長2人が同乗し、仰向け状態の日下さんの脇付近から垂れ下がった捕縄を強く握っていた。 救急車は約3キロ離れた慶応義塾大学病院(新宿区)へ向かった。 日下さんは、日々の取り調べの様子や自身の体調などを弁護士から差し入れてもらった「被疑者ノート」に記録していた。 この記録によると、運び込まれた救急処置室には7、8人の医者や看護師がいた。 日下さんが鮮明に覚えているのは、病院到着後の医師と警察官のやりとりだ。 心電図など必要な検査を実施するため、医師は同乗してきた女性警察官に手錠を外すよう求めていた。 だが、警察官は「規則だから」と応じようとしなかったという。 この後、医師が警察官に放った言葉とは。実際にどのような治療が行われたのか、スローニュースでは入手した資料をもとに当時の状況を詳しく伝えるとともに、識者が指摘する『問題点』についても明らかにしている。 筆者:宮崎稔樹(みやざき・としき) 長崎県出身。2014年4月に毎日新聞社に入社し、福島支局で震災・原発事故報道、東京経済部でIT企業やデジタル経済などを担当した。2020年10月に国際協力機構(JICA)へ転職後は2年間、フィリピンの平和構築を主に担当したほか、メディア支援プロジェクトを新規で立ち上げた。その後、英イーストアングリア大学院で修士号(Media and International Development)を取得し、2023年10月からスローニュースに編集者として参画。一貫して「メディア×人道」の領域に関わっている。 (https://slownews.com/m/ma37b90741d4e)
スローニュース 宮崎稔樹/フロントラインプレス