一人でも多くの命を救う。レスキューナースが見てきた災害現場のリアル【防災のプロに聞く#1】
避難所に救援物資があるのに配れない?
報道されるニュース映像にはなかなか映らない、被災地のリアルな現場をたくさん見てきた辻さん。たとえば、地震が発生したら避難所に行けば大丈夫、と思っている人も多いと思いますが、辻さんによると「行ったとしても、必ず受け入れてもらえるとは限らない」のだそう。 「避難所にも定員があります。近年は感染対策もあって、避難所で受け入れられる人数はさらに減っているんです。ただ、多くの場合、定員を超えて人が避難してくるのを止められないのが実態です。 そうなると、その避難所に回ってくる食べ物などの救援物資が不足します。全員に行き渡らない数のものを配るとトラブルになるので、救援物資は届いているのに配れない、という事態が起きることも結構あるのです」 避難所に行っても入れない、救援物資をもらえないことがあるとあらかじめ想定して、避難先の候補を複数見つけておく必要がありそうです。
日常生活から、スマホがなくても過ごせる工夫を
避難生活では大きなストレスがかかります。トイレ事情など不便は多く、日常生活とは異なるイレギュラーの連続に、なかなか適応できないことも。 「避難所には人数分のコンセントが用意されているわけではないので、自由に充電するのは難しい場合がほとんどです。でも、最近ではスマホが使えないとなると大きなストレスを感じる人が多いですよね。 たとえば、小さなお子さんの中には習慣的に見ている動画などが見られない状況に耐えられなくなり、騒ぎ出してしまう子も多いんです。充電をめぐって避難所で親子げんかを繰り広げている様子なども、よく見かける光景です。もちろん子どもだけではなく、大人同士で争いだすことも……」 だからこそ、辻さんは「日々の生活で生じる小さなトラブルを乗り越える経験をしたり、心にダメージを受けたときの切り替え方法を見つけておいたりすることが、災害時に必ず活きる」と語ります。 「困難な状況に対して、うまく適応できる力を日頃から高めておくのも大きな災害対策になります。動画やゲームなど充電が必要な遊びができないときに、アナログな環境だけで乗り切る方法や、メンタルダウンしない対策を持っておくのも、災害に向けた備えになります。 災害のニュースが多く報道され、怖い気持ちばかりが募ってしまう人もいるかもしれません。でも、今のうちから、日常生活で起きる小さなトラブルに対して『あるものだけで、対処できないかな?』と考える習慣を、ぜひ身につけてみてください。防災になるだけでなく、日常生活を豊かにすることにもつながるはずですから」 取材・文/塚田智恵美