神戸の「片山工房」から優れたアート作品が生まれるワケ
「障害のある人を助けているつもりはない」に込められた想い
◾️「助けているつもりはない」 そんな彼の口癖は、「障害のある人を助けているつもりはない」というものだ。 支援するのではなく、ひたすら待って寄り添うのが新川流のスタンス。なので、片山工房では美術系の大学を卒業したスタッフも在籍しているが、作品づくりに口出しはさせていない。 「実は私も口や手を出したくなります。ただそうしてしまうと、私のアート作品になってしまう。本当は不安なので言いたい。でも私は、それを意識的に我慢しています」 そんな彼の姿は、部下の育成に悩む管理職の姿に似ているようにも感じた。なぜなら、作品の完成をひたすら待つというのは、企業であれば成果が出るまで待つことと符合するからだ。これは「マネジメントの父」と称されたピーター・ドラッカーが、リーダーの役割は「人間の能動性を奮い立たせる」ことだと指摘したということともピタリと一致する。 新川は、障害のある人への支援について、自らの考えをさらに深く次のように話す。 「良い言い方でないですが、大震災で建物が焼けたり倒壊したりしたことで、このあたりの見晴らしがよくなりました。六甲の山並みとか、かつては見えなかったものが見えてきたのです。それと同じで、障害のある人たちを照らしているライトを全部消してからこそ、見えてくるものがあります」 こう語る新川だが、現実路線も見失わない。例えば、自閉症の人は集中力が優れているといわれているが、アートとして素晴らしい作品をつくり出せる人は10人に1人もいないという。 昨年11月に、片山工房の地元、新長田で開催した特別展には、わずか15坪ほどのギャラリーに、1400人近くが足を運んだ。 シンプルに障害のある人たちが社会のなかで役割を果たしているのを伝えたいという気持ちがいつも原点にあるという。だからこそ、多くの人たちからの共感を得られやすいのではないだろうか。
多名部 重則