橋下発言で慰安婦「強制連行」めぐる議論が再燃か
日本維新の会の共同代表の橋下徹大阪市長による、従軍慰安婦をめぐる一連の発言が物議を醸しています。「慰安婦制度は必要だった」「在日米軍は風俗業を活用すべき」といった発言が取りざたされていますが、もう1つの論点である「慰安婦が強制連行されたのかどうか」についても議論が再燃する兆しを見せています。 橋下氏は、旧日本軍や政府が慰安婦を強制連行した証拠はないと主張しています。5月15日のツイッターでも、「慰安婦の活用を真摯に反省」する必要はあるとしつつ、「強制連行の有無は、日本だけ特殊な性的奴隷を使っていたのかどうかにかかわる重要な要素。ここを日本は明確にしてない。だから世界からも特別に非難をされている」と書いています。
「慰安婦問題は強制連行の問題」
橋下氏の主張について、慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は5月16日のツイートで「慰安婦問題は強制連行の問題」と言い切ったうえで、「強制連行があったのかどうか、そこに軍が組織的に加担していたのかどうか、という点を徹底調査した上で、現日本政府がなかったというならば、橋下さんの言うとおり、きちんと主張すべき」と書いています。 海外では慰安婦制度が強制的なものだったと受け止められており、多くの英語メディアは慰安婦を性奴隷(sex slave)と表現します。ニューヨーク州議会下院は5月7日、慰安婦は「人道に対する罪」だと指摘する決議を採択。慰安婦制度を「日本政府による強制的な軍の売春」システムだと指摘しました(産経新聞5月16日)。 「強制連行」が海外に広く知られるきっかけになったのが、1993年8月に当時の河野洋平官房長官が発表した「河野談話」です。この談話の中で日本政府は、慰安婦問題に旧日本軍が関与していたことを認めておわびしました。「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」などとしています。 河野談話に批判的な人も少なくありません。第1次安倍内閣は2007年3月、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」などとする答弁書を閣議決定しました。河野談話を否定するような内容で、橋下氏も言及しています。同年6月には、ジャーナリストの櫻井よしこ氏ら有識者でつくる「歴史事実委員会」が、同様の内容を含めた意見広告を米紙ワシントンポストに出しました。