給食、箸を使って非常用カレー 震災の教訓次世代に 福島県南相馬市
「洋食だったらいつもはスプーンとフォークなのに、きょうはスプーンと箸だね。なぜだか分かる?」 3日、福島県南相馬市立原町第一小学校の給食の時間。カレーの香りが広がる4年1組の教室で、同校の渡部和子栄養教諭が児童27人に問いかけた。 防災月間に合わせて災害時の食について考えてもらおうと、同市の幼稚園と小中18校の給食に温めずに食べられる非常用レトルトカレーが出た。電気やガス、水道が止まり給食を提供できない場合に備え、各校に1人2食分を保管している。 児童はレトルトパウチの封を切ると、タマネギやニンジンが入ったルーを白米の上にかけ、豚モモ肉のカツと一緒に食べた。非常時はカレーを常温のまま提供するが、この日は校内の調理場であらかじめ温めた。 あっという間に食べ終えた今野桃さん(10)は「いつものカレーと同じくらいおいしい。冷たくても食べられそう」。 2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた同市。東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で、直後は小中学生の7割が市外へ避難した。震災から約1カ月後に市内に残る児童・生徒で学校が再開したが、物流はストップしていたため生鮮食品が手に入らず、おにぎり2個から給食を再開。1学期は全国から寄せられた支援物資を使って給食を続けた。「あの日のことを忘れないように」と防災意識を高める目的で翌年から「防災給食」が始まった。 渡部教諭の問いの答えは、「災害時にフォークは手に入らないことが多い」から。震災後は給食用の食器も足りず、支援してもらった使い捨ての食器などは貴重だった。 渡部教諭は続けた。「避難所では割り箸は配られやすいけど、フォークはもらえないでしょう? そんなことを思って食べてみてください」 震災の3年後に生まれた子どもたちは、いつもとは少し違う気持ちで箸とスプーンを握った。
日本農業新聞