中国で押し進められている、「軍部」と「民間企業」の癒着…習近平の「真の思惑」が見えてきた
元軍人が創業・経営の民間企業
これは単なる再就職という意味だけでなく、2017年の軍制改革で削減対象となった30万人を中心に、積極的に起業・操業を促したことにつながっています。今般の「軍民融合」とは意義も時代も異なりますが、中国では一見、軍関連企業ではなくとも元軍人が創業・経営する民間企業は多く、その先駆けで最も成功した事例がファーウェイ創業者の任正非です。 背景には中国が驚くべきペースで伸ばしてきた国防費の伸び率が近年、低下し始めたことがあります。もともと軍工企業が持つ技術を民間転用して稼いでいたところに、デュアルユースの裾野を広げ、民間セクターでも利潤を上げることで民間関連企業の体力をつけます。また、民間企業や国有の軍工企業による共同軍事研究を促進、さらに民間のイノベーションを軍事研究に生かそうというわけです。結果として、国防費を抑えながら技術向上を図ります。
軍部内腐敗に大鉈を振るう習近平指導部
また中国が経済合理性のために必要だったという理由以外に、習近平指導部は中国内部の政局的に利用したという側面もありました。習近平指導部が発足した2012年当初から掲げられたいくつかの解決課題の一つが「反腐敗」だったという背景もあります。 習近平指導部は、発足初期の数年間は行政機関や司法機関の腐敗低減を中心とする政策にとりかかりました。そのうえで、さらに巨大な腐敗の温床となっていた人民解放軍にも手をいれる必要がありました。 強権の習近平党指導部といえども、人民解放軍組織の腐敗是正はそう簡単に達成できるものではありません。大鉈を振るった軍制改革を通じて組織体制を変更させることで、人事異動を発生させ徐々に中央軍事委員会主席たる習近平が動かしやすく目が行き届きやすい人民解放軍の人事構成に変化させていきました。 武器調達取引汚職をはじめとした軍内の腐敗を低減させるために、軍の各部門と民間が取引する軍民融合は都合が良い施策だったともいえるでしょう。 中国では「軍事技術を民間転用できそうなもの」と、逆に「民間技術で軍事技術に使えそうなもの」をそれぞれリストアップし、事細かな技術を掲げつつ、研究プロジェクトを募っている実態もあります。たとえば前者であれば新素材、スマート製造、ハイエンド装置、応急救援など。後者では水中無線潜航機、スマート無人装置、ネットワークセキュリティ、画像処理などが掲げられています。 さらに関連記事【中国が「福島原発の処理水放出」を問題視した「ほんとうの理由」、「反日」なわけではない…】では中国を動かす、とあるメカニズムについて解説しています。
中川 コージ(管理学博士(経営学博士)・インド政府立IIMインド管理大学ラクナウノイダ公共政策センターフェロー)