フランス人歴史学者が日本の海賊「倭寇」を研究するようになった理由
コロナ禍により中断していた、クーリエ・ジャポンの人気シリーズ企画が帰ってきた。「渋沢・クローデル賞」フランス側受賞者へのインタビューだ。 【画像】「日本の海賊」を研究するフランス人ダミアン・プラダン氏 今回は、前期倭寇に関する博士論文で第39回(2022年)渋沢・クローデル賞を受賞した歴史学者のダミアン・プラダン氏に、2年遅れの受賞記念講演会があった日仏会館で聞いた。 ──フランスのどちらで生まれ育ったのですか。 フランスの南部にアルビという都市がありますが、そこから車で15分くらいのラバスティード-ガボスという、人口400人ほどの田舎で生まれ育ちましたので、けっこうな田舎者です。 そんな環境でしたので、家族も周りの人も、極東に関する知識はあまりないというか、日本と中国の区別もつかないレベルでした。高校で日本について習ったことはありましたが、本当に関心を持っていたとは言えません。 高校3年生のとき、アルビの書店で『日本語のまねきねこ』という日本語の教科書を見つけ、「面白そうだな」と買いました。最初は独学で、やがて日本の大学で学ぶことになりました。そもそもは日本語という言語に魅力を感じて始めた勉強だったんです。 ──その後、歴史の研究者を志されたわけですが、何か決定的な本との出会いがあったりしたのですか。 いろいろな本を読んで歴史への好奇心が出てきたのですが、そのなかで印象深かったのが修士課程に入ってから読んだオリヴィエ・シャピュイの著作『海においても、空においても』(1999年、未邦訳)です。 日本の歴史とはまったく関係ない内容で、ボータン-ボープレという水路測量技師を紹介する本です。この人物はあまり有名ではないですが、18世紀末から19世紀初頭にかけて地図の作成法を編み出し、その分野では大きな影響を残しました。 その技師のことを紹介する前に、技術の歴史がこの本に書かれていたのです。たとえば航海のときに緯度や経度をどうやって測ってきたか。どんな道具や方法を使っていたのか。その道具や方法は、どう変化していったのか。そういったことが詳しく説明されていました。 それを読んだとき、「ああ、1冊の本にこんなに多くの知識を盛り込めるのか」と感銘を受け、私もいつかこのような立派な本を書きたいと思ったのです。