日本マラソン界は東京五輪へ向け川内らが惨敗した“ドーハの悲劇”から何を学ぶべきか
今回の優勝タイムは2時間10分40秒で、メダル獲得ラインとなる3位は2時間10分51秒、入賞ラインの8位は2時間11分49秒だった。 川内は目標の「入賞」まで6分10秒もの大差をつけられたことになる。優勝したレリサ・デシサ(エチオピア)はラスト2.195kmを6分15秒で走破しており、このペースでも余力は十分にあったと考えられる。 河野ディレクターは、「MGC出場資格を持つ選手が出場しても、この順位なので世界のレベルは改めて高いなと痛感しました」と話していた。 一方、大会初日に行われた女子マラソンは、武冨豊女子マラソン部長(天満屋監督)が、「2時間38~39分台を出せば入賞できる」と予想。その読みがピタリと的中した。 「3人とも入賞争いをする実力はない。とにかく暑さと湿度があるなかで、3人が交代で引っ張りながら5km19分を切るくらいのペースで行き、最後は元気のある者が上げていけば入賞の可能性はあると思っていました」 日本勢は3.5kmずつ交代で引っ張り、レースを進めた。その結果、谷本観月(天満屋)が2時間39分09秒で7位入賞。 「キロ3分48秒ペースで押して走ることを意識しました。このペースで良かったのかよくわからなかったですけど、監督の言うことを聞けば大丈夫だろうと思っていました」と、マイペースを保ちながら、徐々に順位を押し上げて、入賞ラインに到達した。 男子のレースでも谷本のように絶妙なペース配分で、上位に食い込んだ選手がいる。アフリカ勢につぐ4位に入ったカラム・ホーキンス(英国)だ。彼のレース運びは日本の参考になるだろう。中間点でトップ集団に24秒差をつけられながらも、終盤に追いつき、最後は優勝争いを繰り広げた。ホーキンスの自己ベストが2時間8分14秒だということを考えると、日本勢でも十分に戦える余地はある。
今大会は世界のビッグ2が参戦していないことも知っておこう。男子マラソンで2時間1分39秒の世界記録を持つエリウド・キプチョゲ(ケニア)と、5000mと1万mの世界記録保持者のケネニサ・ベケレ(エチオピア)だ。ベケレは9月29日のベルリンマラソンで世界記録に2秒差と迫る2時間1分41秒をマーク。キプチョゲは10月12日の非公認レースで42.195kmの2時間切りに挑む。 ベケレの動向はわからないが、キプチョゲは五輪連覇に意欲を見せており、来夏の東京に登場する可能性が高い。参戦することになれば、日本の常識を打ち破るようなレースを見せるだろう。 日本は暑さ対策に関して世界のどの国よりも進んでいる。しかし、男子競歩の50kmと20kmを制覇したこともあり、他国から注目を浴びる存在になった。今後は参考にされることになり、暑さ対策の優位性はさほどなくなるかもしれない。また今回のような比較的涼しいコンディションになる可能性もあるし、キプチョゲのような怪物が登場することも含めて、様々なシミュレーションを考えておいた方がいい。 すでに男女で合計4名が代表に内定して、MGC3位の選手も内定に大きく前進した。暑さ対策も大切だが、最後は純粋な走力がものをいう。内定者も今冬のレースに挑戦して、自己ベストを狙うなど、42.195kmを速く走り抜く能力を少しでも高めておく必要もあると思う。 「暑さ対策については、個人差があるので、個別性を考えて対応していきたい。いずれにしても、本番当日の天候に合わせて、キッチリと力を出せる準備をしないといけません。終わってみて、ああすれば良かったということはできるだけ少なくしたい。どんな状況においても100%のパフォーマンスを発揮できるようにやっておかないといけないと思っています」と河野ディレクター。 ”ドーハの失敗”から学び、東京五輪では気象条件を味方につけて、男女ともマラソンのメダルを奪いにいってほしい。 (文責・酒井政人/スポーツライター)