訪問介護サービス基本報酬引き下げに疑問続出 ヘルパー来なくなり福祉崩壊か
訪問現場に現れた異変
そもそも事業所には加算の取得に積極的になれない理由がある。度重なる改定によって変更手続きが負担になっていることや、初任者研修修了者が多い事業所で介護福祉士の割合を増やすのが現実的に難しい、などだ。加算によって利用者負担が増える側面もある。 前述した収支差率についても、関係者から疑義が上がっている。たとえば先の厚労省調査結果では訪問リハビリの収支差率は9・1%と、訪問介護より高い。また、訪問介護の収支差率が高くなっているのは施設と違い水光熱費がかからないほか、人材不足で人件費が少なくなったためだと、某自治体の介護保険課職員が話しているとも聞いた。このように厚労省の説明には疑いの余地があり、背景には財源を圧縮する隙間を探しているだけではないかと思えてくる。 今回の引き下げをきっかけに、事業所の閉鎖が生じると話す人は多い。中山間地を抱える地域ではすでに閉鎖ドミノが起きているとの声も聞かれた。また、介護現場にはある異変が起きている。 東京・墨田区で長年訪問介護員を務めてきた小谷庸夫氏は「排泄の失敗も多く、入るのを嫌がる事業者やヘルパーがいる」という。 小谷氏が見せてくれた写真には、ゴミ屋敷と化した部屋に横たわる認知症の人の姿があった。 「無残な姿と思えるかもしれないが、誰かがケアを担わなければいけない。しかし報酬に見合わないし、ヘルパーに辞められたら困るので無理は言えない」(小谷氏) 営利企業ほど、要介護度の高い利用者を選ぶとする研究者の指摘もある。他方、コロナ禍で顕在化したようにNPOなど地域に密着した事業所が、他が断るケースも担ってきた。 営利追求の果てに福祉が壊れていく。倒産と統合で業界が再編成されれば、福祉の破壊が広がることが懸念される。
宮下今日子・ライター