斉藤由貴『卒業」』の印象的すぎるイントロに隠された感動的秘話…制作陣が目指した、それまでにないアイドルの「多様性」とは
卒業白書2024#12《前編》
1985年のリリース以来、卒業ソングのスタンダードとして愛され続けている斉藤由貴の「卒業」。先に役者としてデビューしていた斉藤は、歌うことには当初、積極的ではなかったという。しかし、ディレクターや作家陣の熱量に感銘を受け、やがてその世界観に共感していった。リリースから39年。改めて「卒業」制作の舞台裏を振り返る。 【画像】歌手活動は今年で39周年を迎えた斉藤由貴
「卒業」のクールさがしっくりきた
――デビュー曲が「卒業」というタイトルに決定したと聞かされたとき、どんな思いを抱かれましたか? 斉藤由貴(以下同) ちょうど私自身が高校の卒業式を控えていたので、すごくタイムリーな曲を作ってもらったんだな、と思いましたね。 ――松本隆さんの書かれた歌詞を初めてご覧になったときのことは覚えていますか? 私という人間のことをちゃんと見ようとしてくださっている歌詞だなと感じました。その当時の女性アイドルといえば、かわいい路線とかカッコいい路線とか、いくつかパターンのようなものがありましたが、自分がそのどこかへ簡単に振り分けられてしまうのは違うと思っていたんです。 その点、「卒業」の歌詞には、どちらとも断言できないような印象があって。 ――斉藤さんは、デビューの際のオーディションで、あみんの「待つわ」を歌われたそうですね。 はい、そうでした。 ――「待つわ」の主人公の女性が、苦しさを耐え忍びながら男性の愛を求めて待つタイプだとすると、「卒業」の主人公は、むしろ「待たない」というか、これからを案じながらも、ひとりの個人としてあくまでクールな視点を持った女性ですよね。そういう女性像についてはどう思いますか? すごく素敵だなと思った記憶があります。ふだんから、自分の感情をあからさまに表現するとか、全部を表に出しちゃう感じでもなかったし。ただ一方で、いろんなことに感じやすくて余計なことを考えちゃうタイプだったんですね。同時に、中島みゆきさんの歌のように、激しく情念的なものにも惹かれてもいたし、自分がそういった多面性を持つことも意識していましたから。 だから、「卒業」という曲のクールさ、そこに見え隠れする感情の発露の奥ゆかしさのようなものもしっくりきたんだと思います。 ――「卒業」の主人公も、一言で「こういう人物」とは言い表せない奥行きや多面性を感じさせます。 《ああ 卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう でも もっと哀しい瞬間に 涙はとっておきたいの》というサビの歌詞にも表れているように、かわいい盛りといわれがちな18歳くらいの少女が歌うにしてはちょっと冷ややかというか、俯瞰的なものの見方をしている歌詞。それって、当時のアイドルの曲ではあまりないタイプのものだったと思います。 ――斉藤さんご自身の卒業式の体験にも重なり合う部分があったのでしょうか? それが……最近になって気付いたんですけど、私、自分の卒業式のことを全然思い出せないんですよ(笑)。涙を流したかどうかすらも記憶になくて。なんとなく覚えているのは、卒業式後のホームルームの様子と、それが終わって下校していくときのことくらいで。自分でもなぜだろうと思うし、不思議なんですけどね(笑)。