【漫画家に聞く】カメラで「撮る」ことは、人の思い出を「盗る」こと? 秋が切なく香るSNS漫画が美しい
振り返りたくない過去を抱えているのか、誰も自分のことを知らない土地に引っ越してきた日暮夕子。極力、誰ともかかわらない“部外者”として、今日も人知れず人物や街並みにレンズを向け、カメラで“撮る”もとい“盗る”日々を送る。ただ、そんな夕子の日常は、秋の木漏れ日と人々のあたたかさによって徐々に変化していく――。 美しくも切ない漫画『日暮夕子は今日も想い出を盗る』 9月下旬にXに投稿されたオリジナル漫画『日暮夕子は今日も想い出を盗る』は、視覚から本格的な秋の訪れを感じさせてくれる漫画だ。作者のせきやよいさん(@sk_yayoi3)は幼少期に父親に『ドラゴンボール』や『セーラームーン』のイラストをよく描いてもらい、「私もこんなふうに絵を描きたい!」と思ったことをきっかけに、友人と創作漫画を作り始めて今に至るという。現在、イラストレーターとしても活躍中のせきさんに、秋の香りが漂う本作が誕生した経緯など、話を聞いた。(望月悠木) ■夕子は自分自身? ――『日暮夕子は今日も想い出を盗る』を制作した背景は? せき:2023年5月に『架空装丁シリーズ』として制作したイラストを見た編集者さんから声をかけてもらったことがキッカケです。本作は初めての長編漫画なのですが、編集者さんと一緒にストーリーやセリフの調整などいろいろ考えながら制作しました。特に紙媒体で漫画を読むことに慣れていたため、文字の大きさの調整などセリフについてはいろいろ編集者さんに助けてもらいました。 ――なぜ秋をテーマに、カメラが好きな女性の物語にしたのですか? せき:『架空装丁シリーズ』としてイラスト制作していた2023年に、昔ハマっていたカメラを購入しました。10年ぶりくらいにスマホではないカメラを手にして、実際に写真を撮る日々を過ごしていく中で、ぼんやりと「“女の子とカメラ”のイラストを描きたいな」と思ったことが背景にあります。また、ちょっとミステリアスなタイトルをつけたいと思い、そこからストーリーを膨らませていきました。 ――夕子が「撮る」を「盗る」と認識していることが面白かったです。この認識はどのようにして思いついたのですか? せき:単純に「『撮る』ではミステリアス感が出ないな」と思い、加えて「対人関係が苦手で想い出が少ない主人公が、他人の想い出をこっそり撮って自分の想い出の一部にすることを趣味している」という設定が浮かんで思いつきました。そこから「『ある出来事をキッカケに堂々と写真を撮れない、撮る権利がない』という気持ちを抱え、こっそり『盗る』という意識なら写真を撮れる主人公にしよう」といった感じで肉付けしていきました。 ――いろいろな事情を抱える主人公・日暮夕子はどのようにして誕生したのですか? せき:夕子の性格は過去の自分を少し重ねた部分があります。また、友達にベレー帽とボブがすごく似合う人がいて、イラストを描いていた時にふとその人の格好が思い浮かび、キャラデザとして採用しました。 ――また、夕子の心をほぐしてくれる山田千代もモデルはいるのですか? せき:はい。ただ、いろいろな人が合わさって出来上がったイメージです。少し塞ぎ込んでいた自分に優しく寄り添ってくれた人や、少し強引だけどいろんな出会いの場に連れ出してくれた人など、“周りで支えてくれた人たちの集合体=千代さん”みたいな感じです。 ■セリフ決めは過去を振り返りながら ――秋を感じる作画が素敵でした。秋を描くうえで意識したことは? せき:まず色使いはオレンジや茶色など、最低限の色味で統一しました。落ち葉、夕日、とんぼ、商店街でさりげなくうつる秋の味覚など、何気ない日常の中から秋を感じられるように工夫しました。 ――また、夕子の感情が動いた瞬間に光がサーっと差し込むなど、光の使い方も秀逸でした。 せき:ありがとうございます。実際の光というよりは、フィルムカメラで撮ったようなどこか懐かしい光を意識して描きました。 ――また、詩的なセリフやト書きも印象的でした。作中の言葉はどのように決めているのですか? せき:昔から詩や短歌、歌詞カードを読むことが好きで、そういったところからト書きを思い浮かべることもあります。また、今回は主人公を過去の自分と重ねているため、「こんな場面ではあの時こんなことを言ったかも」「こういうことを言ってくれた気がする」など、自分の経験からもセリフを考えました。 ――今後はどのような作品を描いていく予定ですか? せき:短編ですが今考えている物語がいくつかあるので、合間を見て制作してSNSなどで読んでもらえたら嬉しいです。また、物語だけでなく、コミックエッセイにも興味があります。描きたいと思ったものにはどんどん挑戦していきたいです!
望月悠木