なぜ、彼女らはリスクをおかしてまで海外へ行くのか? その実像に迫った『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』
海外への〝日本人出稼ぎ風俗嬢〟が話題になっている。昨年9月にインフルエンサーの女性がハワイへの入国を拒否されたことがネットで話題となり、近年売春目的で渡航する日本人女性が増えたために同様のケースが多発していたことが明らかになった。 もう日本では働けない…『ルポ出稼ぎ日本人風俗嬢』 また、やはり昨年にSNSで「ラオス案件」と呼ばれるラオスでの風俗の高額出稼ぎ募集が出回り、ラオスの日本大使館が注意喚起を行うということも起きている。 なぜ、彼女らはリスクをおかして海外へ出稼ぎに行くのか。その実像に初めて迫った『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(松岡かすみ著・朝日新書)がこのほど刊行された。風俗嬢たちの出稼ぎの実態について、松岡氏に聞いた。 「正確にどれだけの日本人風俗嬢が海外へ出稼ぎに行っているかというのは定かではないんです。しかし、若い日本人女性が観光目的なのに入国拒否されるケースはここ数年ですごく増えているようで、ビザに詳しい行政書士事務所でもそうした相談件数が多くなっているようです。 また、風俗で働く人の相談窓口として機能している日本の支援団体に、去年オーストラリアの支援団体から、現地で働く日本人のセックスワーカーが増えているから、日本語で書かれたパンフレットが欲しいという依頼があったそうです。こういう話を踏まえると、出稼ぎ目的で渡航する日本人女性はここ数年で、かなり増えてきているのではないかと思っています」 松岡さんが取材した女性たちは5年~10年前ぐらいに始めたケースが多いという。コロナで稼げなくなったことがきっかけだという女性もいたが、コロナ以前から「海外のほうが稼げる」という話はあったそうだ。海外を目指すのはどういった女性たちなのか。 「もともと風俗経験があって、どちらかというと稼いでいる層の女性が、さらにもっと上を目指すといったような、一定の成功体験を持った上で海外に出ていったというのが、私が実際に話を聞いた女性たちに共通していた部分ですね。 今、Xなどでは海外出稼ぎを募る案件情報が日々たくさん出ていますが、そういうのを見て、そんな美味しい話があるんだったら行ってみようかなと、何となく行ってしまう女性たちとはちょっと違う気がします」 渡航先として多いのは、アメリカ、カナダ、オーストラリアの3ヵ国だという。人気の理由は手堅く稼げて摘発されるなどのリスクが比較的少ないからだそうだ。シンガポールや香港などの名前も挙がるが、上記の3ヵ国と比べると選ばれにくいとのことだった。 ではどれぐらい稼げるのか。本書に登場する女性たちの例では、一回の出稼ぎで5万ドル(3月11日現在のレートで約735万円、以下同)とか、月収2万ドル(約294万円)など、かなり景気の良い数字も登場する。ただし、あくまでその女性の「スペック」によって差がつくようだ。 「私がエージェントから聞いた話では、1日の収入が低く見積もって15万~25万円。別のエージェントによれば、オーストラリアの場合で1日6人~12人を接客して1500~3000豪ドル(約15万~29万円)というのが平均的だそうです。 ただ、年齢や容姿などでかなり違ってくるところはありますね。風俗店の単価自体は、国によりますが日本の2倍から5倍で、海外では単価そのものが高いという事情もあるみたいです」 海外への出稼ぎが増えた背景には、まず日本という国が、不況とデフレで他の国の物価や賃金が上がっている間にすっかり「安い国」になってしまったことが挙げられる。円も安くなり、結果、外国人観光客が増えた一方で「日本以外の国のほうが稼げる」と海外へ目を向ける動きは増えている。それは風俗に限った話ではない。さらに松岡さんは2つの理由を指摘する。 「昔は性の売買は転落の象徴のように思われていました。それがそうではなくなってきて、本当に普通の女性が、普通に働くようになった。風俗業界で働く人が増えたことで、稼げる層と稼げない層の二極化が起きている。それで思うように稼げなかった人や、もっと稼ぎたい人たちが、海外に目を向けるようになってきているのかなと思います。 もう一つはSNSの発達です。SNSを活用してお店を通さずに個人で繋がることでお客さんを広げることができるようになった一方で、海外のお店と直接やりとりをしたり、本当にフリーランスでやっている人だと、独自の世界観で作りこんだHPで世界的に集客していたりもします。また、エージェントとかスカウトって名乗る人たちからの海外案件の情報は風俗嬢に限らず、一般の人もSNSなどでかなり見られる状況になっていて、それで広がっていることもあるのかなと思います」 本書には、松岡さんが取材した6人の「出稼ぎ風俗嬢」が、その生い立ちから、なぜ海外で風俗をするに至ったのか、実際に海外で働いた経験などについて語っている。親との関係が悪くて若くして自活していかなければならなかった人もいれば、稼げるからと何となく風俗を始めた人もいて、きっかけはさまざまだ。 出稼ぎに至る動機は「お金」だが、海外で風俗の仕事をしていく中で次の目標を見つけて、現在は違う仕事を始めている人もいれば、その道で自身のポテンシャルに気づいた人もいる。多少は危ない目に遭ったケースはあるものの、ここに登場する女性たちは現時点では「成功者」なのだろう。だが、そもそもの前提として、彼女たちがやっていることは「不法就労」だと松岡さんは警鐘を鳴らす。 「今の時点では成功している人でも常に危険と隣り合わせ。いつ捕まってもおかしくないんです。本当に危険な目に遭うことだってあるかもしれない。働いたのにまったくお金がもらえないようなことも全然あり得ると思います。ただ、そもそも違法に働いているから警察に駆け込むこともできない。そういった話は表に出てこないんです。 女性たちが聞いた話には、乱暴されるとか、金品を盗まれるとか、パスポートを取られて働かされるとか。薬物中毒の客から知らないうちに薬を盛られたというものもあります。そういう危険があるのは、みんな何となくわかっていても運任せみたいなところがある。それはすごくリスキーなことだと思います。 また、日本の現在の不況を考えると、海外出稼ぎはもっと増えるでしょう。それは一部の人にとっては、リスク以上に高いリターンが得られたとしても、例えば観光目的で海外旅行に行った女性が入国拒否されたケースのように、日本全体の大きな問題になる可能性だってある。将来的にはビザの取得が厳しくなってしまうかもしれない。バレなきゃいいという問題じゃなくて、本当に大きな問題に発展していくかもしれない可能性についても考えなくちゃいけないなって思いますね」 今後、海外を目指す女性はますます増えていくと思われる。そんな女性たちが誰かの食い物にされたり、悲劇に遭わないことを祈るばかりだ。 『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(松岡かすみ著・朝日新書)
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