【インタビュー】「女性たちの物語」を描いた朝ドラ『虎に翼』、制作統括が語る作品に込めた思いとは
「それぞれのバックグラウンドから出てくる意見」が重要
──寅子が法曹という「力を持つ立場」になっていくだけに、いかにして「裁きを下してスカッとさせる」という方向ではなく描いていくのか、というところが気になります。今後、女性だけでなく「あらゆる弱者の立場になって考える」というドラマになっていくのでしょうか。 寅子はやがて弁護士になり裁判官になるので、「人を救える力を持つ存在」を目指すのですが、寅子も完全な人間ではない。虐げられた人々を救おうとするのだけれど、なかなかうまくいかない。絶えず打ち破らなきゃならないもの、乗り越えなければならいものが目の前に現れる。 「完全なる立場から人を救う」のではなく、弱く、虐げられた人たちと同じ目線に立って問題を解決したり、あるいは、なかなかすべてが解決するには至らないのだけれど、一歩進むことができたり。そんな物語が続いていきます。 寅子と同じ女子部の面々も、本科に進んでから出会う男子学生たちも、さまざまです。そんな彼女ら・彼らが議論を交わしたとき、「それぞれのバックグラウンドから出てくる意見」が重要であると考えます。「主人公だからといって、寅子だけが正しいというわけではない」というのが前提としてある。 いろんな意見があって当然で、ある回では「寅子の言うとおりだ」と思ったとしても、違う回では「いや、よね(土居志央梨)の意見のほうが共感できるな」と思えるように描いています。そして、それが吉田さんの作家性だと思います。 ──第1回冒頭のシーンを見て「この作品は、あらゆる弱者の目線に立って描かれるドラマになるのではないか」という期待を抱きました。憲法第14条が読み上げられるなか、戦後の焼け跡に生きる、いろんな属性、いろんな立場の人たちが映し出されるシーンが見事で。『虎に翼』ではこうした、いわゆる「エキストラ」と呼ばれる役でも「それぞれの人生があり、そこに生きている」と感じさせてくれる演出が際立っていますね。 第1週は作品のテーマを打ち出す週ですので、チーフ演出の梛川善郎が、かなりこだわって周囲の人物たちを描きました。いわゆる「エキストラ」と言われるような存在の方々でも、それぞれがドラマを背負っている。それがこの作品のテーマなのだと、強く意識してやったところだと思います。 それに対する視聴者の方々の反応もうれしかったです。大きく映ることのない、画面の端のほうで存在している人物に至るまで、きちんと見ていただけているのだと知って、ありがたい思いです(後編へ続く)。