『アンメット』はいかにして成功作となったのか 米田孝Pが語る杉咲花×若葉竜也らとの共闘
『アンメット』気になる結末は2年半前から決まっていた
ーー大きな反響は、米田さんのもとにも届いていますか? 米田:すごい反響をいただいて、ビックリしています。届いてほしいことがちゃんと届いているという実感がありますね。 ーー“届いてほしいこと”というのは? 米田:例えば第10話でいうと、成増先生(野呂佳代)が、ひとりでガトーショコラを買いに行くくだりがありましたよね? ああいう想像力が必要なシーンを入れるのって、ちょっと勇気がいるんです。でも、X(旧Twitter)を見ていたら「成増先生は、亡くなったパートナーと一緒にガトーショコラを半分こしていたのかな?」とか想像してくれている方がたくさんいて。成増先生のパートナーというのは、実際に登場するわけではないのに、「ちゃんと届いてくれてる!」とうれしくなりました。 ーー『アンメット』は、どこまでが計算されていて、どこからが自然発生的に生まれたものなのか、境界線がわからなくなる瞬間もあったりして。 米田:自分たちもやっていてわからなくなる瞬間があります(笑)。ただ、若葉くんもよく言っていますが、意外とアドリブじゃなかったりするんです。杉咲さんと若葉くんに関しては、“役作り”というワードがなんかしっくりこないんですよね。役を作っているというよりは、役を染み込ませていっている感覚というか。本人たちも、現場で実際に芝居を始めてみないと自分の感情がどう動くのかわからないだろうし。話題になった第9話のラストシーンなんかも、変わった脚本の作り方をしたんです。 ーー変わった脚本の作り方とは? 米田:三瓶(若葉竜也)がお兄ちゃんのことを話し始めるまでのストロークとして、それまでにどういう時間がそこにあったらいいのかというのを、杉咲さんと若葉くんと話し合いながら練っていきました。これは僕のなかでは新しい挑戦だったんですけど、台詞を決め切るのではなく、脚本の篠﨑さんに三瓶の子ども時代のストーリーをA4用紙1枚くらいにまとめてもらって。それを、若葉くんに預けていたんですよ。 ーーその紙にはどのようなことが書かれていたんですか? 米田:お兄ちゃんとどういうふうに過ごしてきたかとか。それこそ、アリを眺めていたエピソードも、その紙に書いてありました。そのなかから、若葉くんが話したいことを選んで、お兄ちゃんの話をしたいと思うようになるところまで持っていくという感じで。 ーー杉咲さんもその紙は見ていたんですか? 米田:いや、杉咲さんには見せていなかったんです。なので、「言われたことに対して、好きにリアクションをしてみて」と。それ以降は、基本的に脚本にある台詞どおりなんですけど。 ーー話を聞く限り、脚本の篠﨑さんとのやりとりが一番長いわけですよね。篠﨑さんとはどのようなやり取りをされていたんですか? 米田:篠﨑さんが書いてくれた準備稿を受けて、杉咲さんと若葉さんと3人でアイデアを出し合う。そして、それを篠﨑さんにフィードバックするという流れでした。篠﨑さんは、役者の温度や感情で生まれたものの力をわかってくれている方なので、「現場で生まれたものを優先してください」と言ってくださって。『アンメット』って、非常に複雑な物語だと思うんですけど、1話ごとの起承転結をつけながら構成する力が、本当に素晴らしかったです。 ーーみなさんの作品にかける情熱が、『アンメット』を成功に導いたのですね。 米田:わらしべ長者みたいにつながりを頼って、ミラクルを起こしながら(笑)。スタッフに関しては、普通はありえないスケジュール感なのに、「杉咲花とやってみたい」と参加を決めてくださる方もいました。第9話のラストシーンなんかは、ワンカット長回しであの重たいカメラを持ちながら、どう動くか分からない役者を追いかけていく。美術セットを避けながらアングルを狙って回し続けるのってかなり大変なことだと思いますし。それなのに、誰ひとり嫌な顔をしないんですよ。 ーー米田さん自身が最も感動したシーンを教えてください。 米田:いろいろと語り尽くしてしまった第9話のラストシーン以外だと、第2話のラストから第3話にかけてですかね。三瓶が「僕たちは婚約していました」という話をするんですけど、若葉くんの芝居の温度感にちょっとビックリしました。三瓶って何を考えているのかわからないキャラクターだけど、「このあたりで三瓶の人間味を見たい」とリクエストしたんです。すると、ちょっと涙が出かけていて、声もかすれているような芝居を持ってきて。「うわ、すごいな」と感動していたのに、途中で街灯の明かりが消えちゃったんですよ。そしたら、若葉くんが「もう一回やります」って言ってくれて。回してみたら、測ったように同じところで涙を溜めて、声を掠らせて。「この人すごいわ……」と鳥肌が立ちました。 ーー第5話で星前役の千葉雄大さんが台詞を噛んだシーンをそのまま放送したこともSNSで話題になっていましたが、米田さん的にはいかがでしたか? 米田:実はあのシーンは僕らの間では何の話題にもなっていなかったんです。「ああ、噛んでる」と思ったけど、芝居が良かったし。実際、こんな深い話をしていたら噛むこともあるよなぁと思ったので、触れもせず。「ここを使おう」みたいな議論すらしてなくて。説明台詞で噛んじゃったりしたときは、分かりづらくなるので使わないけれど、感情が溢れて言葉に詰まるというのは人間としてすごく当たり前のこと。もしかすると、『アンメット』スタッフがちょっと変なのかもしれませんが(笑)。 ーー米田さんが思う『アンメット』が成功した最大の要因を教えてください。 米田:難しいですけど、やっぱりキャストとスタッフが同じ方向を向いていたことですかね。だからこそ、面倒くさいことを、面倒くさがらずにとことん追求できた。それが、ちゃんと視聴者に届いてくれた。作品を観てくれている方も、同じ方向を向いている感じがありました。 ーー原作コミックの連載が続いているだけに、ドラマの結末も気になるところです。 米田:ドラマの結末は2年半くらい前には決まっていたと思います。こういうふうに終わろうという話は、篠崎さんとの間でだいぶ早い段階で話していたので。『アンメット』がどういう終わり方を迎えるのか、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います!
宮川翔