タニグチリウイチの「2023年 年間ベストアニメTOP10」 宮﨑駿の映像表現は新たな地平へ
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、アニメの場合は、2023年に日本で劇場公開・放送・配信されたアニメーションから、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第3回の選者は、書評家・ライターのタニグチリウイチ。(編集部) 【写真】主人公の右の頭には傷が……北米No.1発進した『君たちはどう生きるか』海外版ポスター 1. 『君たちはどう生きるか』 2. 『窓ぎわのトットちゃん』 3. 『北極百貨店のコンシェルジュさん』 4. 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 5. 『雄獅少年/ライオン少年』 6. 『大雪海のカイナ』 7. 『カミエラビ』 8. 『ぼくのデーモン』 9. 『陰陽師』 10. 『薬屋のひとりごと』 宮﨑駿監督の10年ぶりの新作劇場アニメが公開されてしまった以上、1位に挙げざるを得ないというのは長く宮﨑駿監督作品を観てきた者の愛であり義務でもあるが、『君たちはどう生きるか』に関してはそうした忖度など不要。少年が探求によって自分と向き合い、周りを理解して大人へと足を踏み出すドラマを高度な作画によってくっきりと描き、観終えて得も知れぬ感嘆に浸らせ、過去の宮﨑駿監督作品にはない地平に立たせてくれた。 『窓ぎわのトットちゃん』は、国民的ベストセラーとは言え過去のものになりかけていた原作をこの不穏な時代に蘇らせ、原作者の黒柳徹子が心に抱き続ける戦争への思いを、まだ幼い「トットちゃん」を通して感じさせた。絵本のような画面と愛らしいキャラの衣の奥から漂い出す非戦のメッセージを浴びて、観客は何を思うか。 この両作はまだディズニーからの古典的なキャラ表現の上に連なるルックと言えるが、『北極百貨店のコンシェルジュさん』は、イラストに近い描線の漫画をルックとして受け継ぎながらもそれを動かし、奥行きも持たせて映像にしてのけた力業に目を惹かれた。滅びへの哀切を漂わせ思い続ける大切さを感じさせるストーリーも良かった。 日本が生んだ世界屈指のゲームキャラが、物語を与えられた時にどれだけの感動をもたらすものとなるか。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はそうした問いに予想以上の答えを出した。手がけたイルミネーションは「怪盗グルー」やそこから派生した「ミニオンズ」といったオリジナルキャラによる物語で観客を喜ばせてきた会社だが、マリオという“お題”にも真っ向から挑んで最善の物語と最高の映像を作り出した。次作があれば、既存キャラのハンドリングにどこまで長けているかが見られるはずだ。 CG技術なら欧米という感覚はもはやない。『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』という空前のヒット作を生み出した中国から来た『雄獅少年/ライオン少年』は、獅子舞の群舞という目もくらむような光景も、開発から取り残された農村の風景もともに隅々まで描ききって実力の程を見せてくれた。特に今作では、神話や古典に頼らず現代が舞台の青春ドラマとして傑作を作り上げたことで、世界が市場へと入ってきた。同じく神話に依らない『深海レストラン』の公開が待ち遠しい。 日本はどうか。『大雪海のカイナ』が見せた表現は、長くCGアニメを作り続けてきたポリゴン・ピクチュアズのひとつの到達点としてキャラもアクションも捉えることができる。加えて世界観。巨木の上に暮らす者がいて、その裾に積もりに積もった雪の上に暮らす者もいて、出会い世界の秘密へと迫る興奮は弐瓶勉にしてはファンタスティックで、宮﨑駿感を与えてくれた。 『カミエラビ』はそんなポリゴン・ピクチュエアズでトゥーンシェイドを確立した瀬下寛之が、ポリゴンを離れリアルさもいったん捨て、ヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クエイらのようなアーティスティックな表現を、CGアニメの上で見せたらどうなるかに挑んだ快作。デフォルメされたキャラだからこそ浮かぶ戯画感が、殺伐とした世界観とマッチしストレートに心を刺す。 『ぼくのデーモン』と『陰陽師』は共にNetflix配信のアニメシリーズ。前者には日本的なキャラと物語を世界の技術力で映像化した時に現れる表現として観るべきものがあり、後者は有名すぎる夢枕獏の小説を、岡野玲子という大ヒットしたコミカライズに依らず少女漫画といった面持ちで映像化し、安倍晴明と源博雅の出会いから友情を確立するまでを描ききって、「誰に向けてアニメ化するか」という問いへの答えを示した。 TVシリーズでは『薬屋のひとりごと』も。1クールをかけて原作の1巻を丁寧に映像化していく仕事ぶりに、アニメ化を一過性には終わらせずファンを長く喜ばせたいという意識を感じた。『転生したらスライムだった件』や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のように長く、原作をアニメ化し続け、共に栄えていくモデルとなってほしい。
タニグチリウイチ