韓国の戒厳令騒動は「最悪の経済的自傷」 2025年、政治混迷が重大リスクに
韓国は優秀で信頼できる中央銀行総裁を選ぶことで定評がある。 韓国銀行の現総裁である李昌鏞(イ・チャンヨン)は2022年4月の就任以来、おそらくほかのどの中銀総裁よりも手堅く金融政策を運営してきた。前任の李柱烈(イ・ジュヨル)は2021年8月、新型コロナウイルス禍の最中に主要中銀で初めて利上げに踏み切った。そのおかげで韓国のインフレ率は、米国から日本まで他国で記録したほどの高さには達しなかった。 李柱烈前総裁は2014年から2022年まで韓国銀行を巧みに舵取りし、優れた実績をあげた。さらに彼の前任の韓銀総裁である金仲秀(キム・ジュンス)も、2010年から2014年にかけて韓国経済を上手に導いた。金の任期は、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利の正常化に着手したことで、新興国市場が極度の混乱に見舞われた時期に重なる。 彼ら歴代の韓銀総裁による手際のよい対応によって、韓国は2008年のリーマン・ショック、2013年のテーパー・タントラム、2020~21年のコロナ危機を乗り切った。もっと前、1997年のアジア金融危機から韓国がいち早く回復するのにも韓国銀行が寄与している。 そして新たに降ってわいたのが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による思慮を欠く「非常戒厳」だ。12月3日に突如宣布され、すぐに撤回に追い込まれたこの戒厳令に端を発する騒ぎは、国会で尹に対する弾劾訴追案の可決につながるなど、引き続き「韓国株式会社」を予測不能な仕方で揺さぶっている。 尹が引き起こしたひどい政治混乱は、現代史で最悪レベルの「経済的自傷」にもなっている。「無秩序でドラマに満ちた政治状況」(ムーディーズ・アナリティクスのエコノミスト、ダニー・キム)を背景に、韓国の情勢は混迷を深めている。その結果、李昌鏞率いる韓国銀行は、政策立案者の誰も予想していなかったような試練にさらされている。 李は12月18日、尹の引き起こした逆風による韓国経済への下押し圧力が強まっていると警鐘を鳴らした。韓国銀行はすでに2024年の国内総生産(GDP)成長率見通しの下方修正を検討している。