「これが真の狙い…?」新体制開始のビッグモーター“伊藤忠巨額出資”の裏に輸入車大手・ヤナセの存在
3月上旬、ビッグモーター和泉伸二社長(55)は従業員4243名に向けて「全従業員の皆様へ当社事業再建に向けた契約締結のお知らせ」としてメールを送信した。伊藤忠商事・伊藤忠エネクス・企業再生ファンドであるジェイ・ウィル・パートナーズ(JWPファンド会社)の3社によるデューデリジェンス(資産査定)が終了し、再建に向けた契約を締結したことを知らせるためである。 【内部写真】何度見てもすごい…! 兼重宏一前副社長「腕組み仁王立ちで店舗視察」の威圧感…! メールを見て最初に驚いたのは宛先の人数だ。最盛期には6000人以上が在籍していたはずだが、創業家で前社長、副社長を務めていた兼重親子が退陣した後、和泉社長が社員に送ったメールの履歴を調べると8月31日時点で4941名に減少。そこから12月8日に4722名、1月31日に4408名、そして今回は4243名と激減している。 メールの内容は契約締結にはじまり、4月後半を目途に「ビッグモーターの主要事業を承継する新会社を発足させる」、「合意を実現させるための所定の条件が充足しない場合や新たに重大なコンプライアンス問題が発覚した場合は支援が取り消される可能性も残っている」などと伝えている。 再スタートに歩みを止めないビッグモーター。一方で、巷では伊藤忠の支援について「疑問の声」も上がっている。出資額は最高で200億円にのぼると報じられているが、伊藤忠はビッグモーターを支援することで何を行おうとしているのか――。 その狙いを読み解く端緒が、水面下で行われてきた「ある交渉」だ。ビッグモーターは今年に入り、重要なコンプライアンス違反があったとして旗艦店であり本社機能を有する多摩店の板金塗装工場を閉鎖した。ほぼ同じタイミングで古賀店(福岡県)、つくば店(茨城県)の工場も閉鎖している。多摩や古賀は全国でも常にトップに位置する売り上げを誇っており、つくばも上位に位置していた。設備も素晴らしく、’19年6月にはビッグモーターのほかの工場と同じく第三者認証機関「テュフ・ラインランド・ジャパン」の認証(ゴールド)も取得している。 しかし、多摩を含め一度閉鎖された工場が再開する可能性があるという。その目的こそ、伊藤忠が支援した狙いではないかと言われているのだ。ズバリそれは、伊藤忠の連結子会社である「株式会社ヤナセ」の支援にあるのかもしれない。 ヤナセは日本の輸入車市場を開拓し、発展させてきた日本最大の輸入車販売会社である。同時に修理工場のレベルも非常に高い。「新車時の性能や外観を100%の状態に戻す」といわれるその品質は、国内最高はもちろん、世界最高峰と称されるほどだ。’16年11月には、テュフ認証で板金塗装工場として日本で初めて世界最高水準のプラチナ認証を受けている。なぜ伊藤忠は、ビッグモーターに白羽の矢を立てたのか。 「一般的に、ヤナセの協力工場になるのは非常にハードルが高い。品質も最高レベルを要求される。しかし、下請けとして受け取る工賃は意外と低く、状況に満足していない工場も多数あると聞きます。そういった事情もあり、ヤナセの下に入れる高レベルの板金塗装工場が足りない。伊藤忠はヤナセの下請けとしてビッグモーターのいくつかの工場を稼働させ、高品質で安価な労働力にしようとしているのではないか」(自動車整備会社関係者) ビッグモーターにどれだけ素晴らしい最新設備があったとしても、地の底から最高峰にまで這い上がることができるのか。それに至るまでには相当厳しい訓練や技術研修が行われることになるだろう。一方で、ヤナセには「ヤナセオートシステムズ(ヤナセの板金塗装部門)」が存在する。ここは厳しい指導で、ヤナセの高い技術力を支える心臓部門だ。伊藤忠としては、その部門の育成力を見込んでいるのかもしれない。 伊藤忠は中古車売買事業や店舗、工場だけでなく従業員も原則、新会社で継承するとしており、部署や担当は新会社になってもそのまま引き継がれる。しかし、創業家・兼重親子との関係が深い経営陣や管理職に対しては退職を促すという話も出ている。 いよいよ新会社の始動まで1ヵ月となった。新たな支援のもと、ビッグモーターは生まれ変わることができるのか。 取材・文:加藤久美子
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