「打ち損ないでもレフトスタンドに」 大谷翔平のバッティングはどこが変わったのか? データから徹底分析
異色の経歴を持つ打撃コーチ
こうした変化については、 「打撃コーチのロバート・バンスコヨックの教えが大きいでしょう。彼はMLBはおろかプロ経験もない異色の存在ですが、これまでJ・D・マルチネスやクリス・テーラーなど多くの強打者を育てた実績があり、『フライボール革命』という独自理論の第一人者としても知られています」(同) とのことで、 「メジャーのデータ解析ツール『スタットキャスト』で、長打を生みやすい速度と角度を組み合わせた『バレル』の割合を見ると、大谷は6月まで19.3%だったのが7月から9月7日までは22.6%と驚異的な数値になっている。強い打球の割合『ハードヒット率』も、16日現在で59.6%と高い数値を保っています」(同)
「打ち損ないでもレフトスタンドに」
『データ・ボール』の著書があるスポーツライターの広尾晃氏によれば、 「バレル率のもとになる『バレルゾーン』とは、打球速度98マイル(約158キロ)の場合、打球角度で26~30度となります。これが長打につながるとされており、速度が上がればその分、角度の範囲も広がります」 11日に大谷が放った47号は速度190キロ、角度は19度だった。デーブ・ロバーツ監督も「普通なら二塁打」と驚いたように、すさまじい速度によってライナーが本塁打と化したのだ。 「大谷は20年のオフ、シアトルにあるトレーニングジム『ドライブライン』に赴き、“スイングスピードを上げなさい”“打ち上げなさい”などとアドバイスされている。その教えによって打球速度が上がり、バレル率も上昇、従ってこすったような打ち損ないでもレフトスタンドに飛び込んでいくわけです。スタットキャストによれば、16日時点で彼の最高打球速度は3位。また打席のうちバレルゾーンの打球を打った率では、ヤンキースのアーロン・ジャッジに次ぐ2位で、13.3%となっています」(同)
敬遠が減少
先の友成氏が続ける。 「現在、打点でもトップを争っていますが、これは打数が増えたのも理由の一つです。昨季の大谷は敬遠四球が多かった。それはエンゼルスに強打者が少ない上、マイク・トラウトもケガで出場が全試合の5割ほどにとどまったためですが、今季のチームメイトはムーキー・ベッツやフレディ・フリーマンなどMVP級がそろう。いきおい相手も、大谷に勝負を仕掛けてくるのです」 さらに、飛躍した盗塁数についても、 「大谷自身、今季は最初から打撃一本で臨むことは分かっており、例年とは違って春キャンプは走塁から始めていました。ドジャースには盗塁のスペシャリストともいえるクレイトン・マッカロー一塁ベースコーチがいます。エンゼルスでの6年間の盗塁成功率は72.3%で、MLBプレーヤーの平均値以下だった。ところが今季は一気に93.3%まで上昇し、失敗はわずか4回(26日現在)。昨季、73盗塁を記録したブレーブスのロナルド・アクーニャJr.の成功率84%を9ポイントも上回っているのです」(同)
出塁するたびに打ち合わせ
ここでも“コーチ力”が。 「エンゼルス時代のベンジー・ヒル一塁コーチは、相手投手のモーションに要する時間をストップウォッチで測るなど、ありきたりの策しか講じませんでしたが、現在のマッカローコーチと大谷は、出塁するたび一塁ベース上で、あるいはベンチ内でも頻繁に打ち合わせをしています」(同) 後編【「あの打ち方をできるのは、投手だから」 大谷翔平の異色のバッティングの秘密とは? 10代の頃の大谷に相談を受けた専門家が解説】では、かつて大谷翔平から肉体づくりの相談を受けたという専門家が明かす、大谷躍進の秘密について報じている。 「週刊新潮」2024年9月26日号 掲載
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