片岡愛之助はどう演じる? 時代を超えた“ダークヒーロー”歌舞伎版『ルパン三世』の魅力
──完成したキャラクターを歌舞伎化することに難しさはありますか? 漫画やアニメーションのルパンをそのまま演じるわけではないので、“歌舞伎で表現するルパン”だと思っていただけると嬉しいです。でも彼はヒーローでみんなが憧れる存在なので、ファンの方々がイメージしているビジュアルに近づけようと、鬘や衣裳は工夫しました。 髪型については、歌舞伎の主役によく使われる“生締(なまじめ)”のような髷があるものは違うと思ったので、今回は例えば『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の仁木弾正のような悪役がつける “燕手(えんで)”という髷を改良してみました。額から後ろへ短い髪が流れているのが特徴で、その髪の長さを調整しました。悪い人を象徴する髪型なので、泥棒のルパンにはふさわしいと思います。 衣裳は扮装写真の撮影当日に出来たてのものを着てみたのですが、赤と黒の和装でも意外としっくりしていて、歌舞伎版のルパン三世ができたと思います。 また、ルパンの「不~二子ちゃ~ん」とか、銭形警部の「待て~、ルパン」など、皆さんが聞きたいと思われるお決まりの台詞もしっかり入っています(笑)。 ──これまでに演出家の方と新作歌舞伎を創る上でどんなことをお感じになりましたか? 古典歌舞伎は基本的に歌舞伎俳優が演出しますが、新作歌舞伎では演出家の方が手がけられることがあります。例えば『GOEMON石川五右衛門』のときは歌舞伎とフラメンコのコラボレーションを試みましたが、演出してくださった水口一夫さんは歌舞伎について卓越した知見をお持ちの方なので、安心していろいろなことができました。歌舞伎にあまり詳しくない方だと、僕たち俳優に委ねる方もいらっしゃいます。いろんな演出の仕方を経験してきた中で、今回初めて演出を担当する戸部和久さんは歌舞伎のことをよく知っていて、これまでに何度か演出助手も務めているので、とても心強いです。特に今回の新作歌舞伎『流白浪燦星』では脚本も戸部さんが担当します。脚本と演出が同じ方だと、例えば稽古場で「この台詞はこういうふうに変えたい」と演出家に相談した場合、脚本も手がけていればタイムラグがなく効率的に、その場で検討して解決できるのがいいと思います。 ──扮装以外にも、音楽など歌舞伎化する上でこだわっていることはありますか? 音楽は皆さんがよくご存じのテーマ曲を和楽器で演奏していて、とても高揚感があるようにできていると思います。僕も実際に聴いてとてもワクワクしました。また「義太夫」も取り入れていますので、歌舞伎ならではの世界観が表現できていると思います。ただ、最近の義太夫狂言は、どうしても台詞をためて発してしまうからなのか、同じ演目でも昔より上演時間が長くなる傾向があるようです。 亡くなった十三世片岡仁左衛門や大和屋のお兄様(坂東玉三郎)が義太夫は「畳むところは畳んで、聴かせるところは聴かせるように演じなければならない」と指摘していらっしゃったのを伺ったことがあります。確かに昔の先輩方が演じていた音源を聴くと、お客様に台詞を聴かせるところはいっぱい張っているんですが、テンポが落ちないように台詞を語っていらっしゃいます。とても大事なことだと思いましたので、新作歌舞『流白浪燦星』の義太夫も今の時代に合ったテンポで運んでいきたいなと思っています。 暗闇の中を手探りをしながら立ち廻りをする「だんまり」や、本物の水を使う「本水」といった演出など、歌舞伎らしさ全開の舞台作りになっているので、楽しんでいただきたいです。