【ウィノナ・ライダー】90年代の憧れの存在から万引き休業。ハリウッドに返り咲いた50代の今【SPURセレブ通信】
ウィノナ・ライダーが銀幕に帰ってきた。9月27日(金)から日本公開がはじまった出世作の続編『ビートルジュース ビートルジュース』(2024年)がアメリカで予想以上のヒットとなり、北米興行収入で3週連続ナンバーワンを達成したのだ。 【写真】懐かしい……! 1990年、ジョニー・ディップとのツーショット “90年代のアイコン”となりスキャンダルを経て、現在50代となったウィノナは、控えめな大御所だ。SNSすらやっておらず、長年のパートナーであるデザイナー、スコット・マッキンレー・ハーンによると、美容整形もしていない。今のハリウッドにおいてもユニークな存在である彼女の軌跡を追ってみよう。 ■90年代の象徴 1971年、出生地ミネソタ州ウィノナにちなんで命名されたウィノナ・ローラ・ホロウィッツは、カリフォルニアのヒッピーな芸術家庭で育った。音楽や文芸を愛し、シド・ヴィシャスのような髪型にチャレンジする子どもだったという。映画も好きだったものの、俳優になる気はさらさらなかった。しかし、10歳のころいじめに遭ったことを心配した両親が演劇学校に入学させたことで、すぐに才能が認められた。 10代より映画に出演していったウィノナだが、当時の映画業界では「かわいくない子」と見なされることが多かったという。80年代といえば、金髪のチアリーダーが高嶺の花。文化系で中性的な彼女はその反対だった。だからこそ、自分にそっくりな役を演じた出世作『ビートルジュース』(1988年)がヒットすると、即座に新時代のアイコンとなったのだ。厭世的ながら繊細でピュアな「変わり者」ウィノナ・ライダーは、90年代のティーンの文化精神の象徴だった。 ■万引きスキャンダルと休業 個性派な脇役を志していたにも拘らずイットガールになってしまったウィノナにとって、90年代は激動の時代だった。『シザーハンズ』(1990年)で共演したジョニー・デップと交際すると、パパラッチに追いかけられるようになった。セクハラに耐える日々のなか、ハーヴェイ・ワインスタインに媚びた態度をとらずに嫌われたことで、干されはじめた。どんどん国際化して数字主義になっていったハリウッドの環境にも合わず、大作への出演を断ってはエージェントから顰蹙を買っていった。なにより「純粋な少女」のイメージが強すぎたため、30代が近づくころには役が限られていったという。 みずから製作主演をつとめた意欲作『17歳のカルテ』(1999年)が成功した世紀末には、映画と同じような荒廃した精神状況に陥っていた。そして、2001年、本人いわくぼーっとしていたら、百貨店で会計し忘れて万引きを犯してしまい、逮捕されるスキャンダルが起きた(当時ウィノナに薬を過剰処方していた医師は免許を剥奪された)。 ハリウッドに嫌気がさしていたウィノナは、両親が住むサンフランシスコに戻り、5年間の休養をとった。 ■「純粋な少女」からの脱却 復帰後、世間に衝撃を与えたのは『ブラック・スワン』(2010年)のカメオ出演。若い主人公に嫉妬する「病んだ」落ち目のバレリーナ役だった。つまり、本人の「凋落」を想起させるスキャンダラスなキャラクターだったのだが、ウィノナにとってはお気に入りだった。デビュー以来背負わされつづけた「純粋な少女」からの解放になったためだ。 2010年代に入ると、ノスタルジーブームが到来。80年代文化を描くNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016年~)に出演したことで、スターとしての復活を遂げた。演じたのは、小さな息子が失踪してパニックになるシングルマザー。もともとは典型的な「子どもを愛する母親」役だったというが、ウィノナが「仕事をかけもちして家事育児を長男に頼る余裕のなさ」といった生活感を与えたことで、奥行きのある人気キャラクターになった。 36年ぶりの出世作の続編『ビートルジュース ビートルジュース』は、ウィノナ・ライダーの変化もあらわしている。第一作目で演じたリディアは、10代のころのウィノナそのもののような、反抗的で純粋なティーンエイジャーだった。今回のリディアは、仕事と子育てに疲れ切った母親になっている。現実の責任とつらさも噛み締めた、深みのある役柄だ。 一方、昔から今まで変わらないこともあるかもしれない。90年代より度々共演してきたキアヌ・リーブスは、魅力をこう語る。 「ウィノナが特別な理由は、脆さと芯の強さが共存していることだ。だからこそ、真実味があるんだ。地に足のついた存在感があって、演じるキャラクターに一貫したリアリティを与えている」 ふりかえってみれば、ウィノナ・ライダーが90年代のアイコンになった理由は「純粋な少女」だったからというわけではなかった。『ビートルジュース』シリーズを観ればわかるように、繊細さや不安を表現しながら、状況を打破しようとする勇敢さの面でも輝いていたから、若者のヒーローになったのだ。それは、母親役をやるようになった今でも変わらない。 【辰己JUNK】 セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)