約148万羽処分「鳥インフルエンザ」収束に“自衛隊”の活躍 “クリスマスの食卓”も救う「災害派遣活動」の知られざる舞台裏
自衛隊180人が「鳥インフルエンザ」処分活動に従事 入隊3か月目の新隊員も
ともに30万羽を超える処分が必要となった島根県と新潟県の養鶏場。このうち、新潟県の養鶏場では、陸上自衛隊新発田駐屯地に置かれる第30普通科連隊の隊員約180人が活動を担ったという。 連隊長兼駐屯地司令の郡山伸衛1等陸佐はこう振り返る。 「(連隊は)鳥インフルエンザに伴う災害派遣をこれまで複数回経験しておりノウハウも保持していた。ローテーションにより、24時間態勢で(処分等を)実施したが、その活動シフトは、活動の効率性を追求しつつも適切な休息を含ませるなど、隊員の安全・健康面に留意して計画した」 中には、9月に連隊に配置されたばかりの新隊員を含め初めて災害派遣に参加する隊員もおり、個人防護具の適切な装着や消毒方法など、感染拡大防止対策の実技教育を徹底したという。 また、隊員の食事を提供する駐屯地業務隊に鶏肉料理や卵を一定期間は避けるよう食事のメニュー変更を指示するなど、細心の注意を払った。 さらに、慣れない任務にあたった隊員に対しては活動後のメンタルヘルスケアも徹底した。日々の活動後に、小グループごとに分かれ解除ミーティング(その日の出来事や感じたことを情報共有したり、互いに心身の健康状態を確認し合ったりすること)を行い、メンタル不調を訴えた数名の隊員には、部内および部外のカウンセリングを受けさせた。
「12~1月が感染のトップシーズン」
今年だけですでに約148万羽(12月15日現在)の処分が行われているが、鶏肉の出荷、市場への影響は少ないようだ。 農林水産省畜産局食肉鶏卵課の担当者によると、処分のうち、肉用鶏(ブロイラー)の数は約22万羽。これは全国の年間出荷数約7億3000万羽の33万分の1ほどに過ぎず、「全体の供給量のごく一部。鳥インフルエンザによる供給への影響はない」と語る。 ただ、担当者は「鳥インフルエンザのトップシーズンは12月から1月。油断はできない。防疫対策の徹底を呼び掛けるなど、できるだけ発生させないことに注力している」と気を引き締める。 前述した第30普通科連隊は11月6日から同8日まで、24時間態勢で活動し、処分が必要な約35万羽のうち約14万羽に対処し、任務を完了した。 厚労省や農水省など関連省庁・自治体の対処や自衛隊の災害派遣活動。そうしたあまり目にすることのない“見えない”活動が市民生活を支えている。 災害派遣活動を終えた郡山1等陸佐は、最後にこう語った。 「市民の皆さまの生活の安全、安心に寄与できたことは隊員一同、ほっとし、喜びとするところです」 ■榎園哲哉 1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。
榎園哲哉