天敵不在 錦織にVチャンス到来!
だから錦織が活躍した、などと錦織ファンを激怒させるようなことを言いたいのではない。昨シーズンの後半、あれだけ飛躍した錦織が苦手な選手たちと対戦する機会を得られなかったのは残念だと思うのだ。ビッグ3の面々には、何度も対戦しながら一度も勝ったことがないような“天敵”の存在が思い浮かばない。錦織がこの先トップに割り込んでいくために、苦手相手の払拭が、課題の一つだと思われる。 錦織が今の力を証明するためにも、また、テニス界がさらなる活気を得るためにも、ナダルやデルポトロには元気にツアーを泳いでいてほしい。 シドニーで、ツアーを離れていた昨年をどのように過ごしていたのかと聞かれたデルポトロは、「テレビでたくさんテニスの試合を見たよ。自分が戦っていた試合をテレビで見るのは、本当に最悪だ」と言いながら、錦織とチリッチが決勝を戦った全米オープンについてはこう語った。 「驚きだったけど、うれしかったよ。僕らはジュニアの頃からいっしょに育ってきたし、ふたりとも、選手としても人としてもすばらしい。グランドスラムでいつもと違う名前が出てくるのは、テニスにとっていいことだと思う」 既述の通り、デルポトロは錦織に4勝0敗。チリッチに対しても8勝2敗と大きく勝ち越している。歯痒かっただろう。悔しかったに違いない。それでも彼らに祝福の気持ちを抱いたというのは、デルポトロの人柄を知っていれば素直に信じることができる。そういう選手だからこそ、錦織と同世代の強力なライバルとして復活してほしいのだ。 錦織に話を戻そう。先週金曜日の会見で、今のコンディションについてこう話した。 「万全の状態で、気持ち的にもリラックスしてこの大会に臨めている。全米ではまったく準備しないで決勝にいったので、逆に万全というのは不安にもなるけど、いい状態で臨めるのはやっぱり気分がいい」 ケガの苦しみを誰より知っている錦織だからこそ、「万全」でグランドスラムを迎えた喜びは大きいのだろう。だが、どんなに努力してつかんだ「万全」も、いつ不意に「最悪」に突き落とされるかわからないという怖さもまた知っている。ここに立てなかった手強いライバルたちに思いを馳せれば、テニスツアーの苛酷さを考えずにはいられない。 だが、それが、錦織の挑戦している世界なのだ。 (文責・山口奈緒美/テニスライター)