若手医療人が房州弁研究 亀田ファミリークリニック 「今後の診療に役立てたい」(千葉県)
医療現場で患者が使う房州弁を正しく理解し、誤解や齟齬(そご)をなくしたい――。館山市の亀田ファミリークリニック館山の若手医療人らが、独自のプロジェクトを立ち上げ、同市内の房州弁の使い手らの協力を得て、動画を含めた発表資料にまとめた。医療機関内で発表し、高い評価を受けた。 同クリニック家庭医診療科専攻医の小野豪洋さんらメンバー9人。「S1プロジェクト」を立ち上げ、地元で使われている方言の研究に入った。医療を進めていく過程で、患者が話す房州弁が正しく理解できないと、誤解が広がり、最終的に正しい診療ができなくなる可能性があるからだ。誤解や齟齬をなくすためには、房州弁を深く学ぶことだと、房日新聞社を訪問した。 『房州弁辞典』(房日新聞社刊)の著者、忍足利彦特別編集委員が対応。診察室での医師と患者の会話の場面を動画で収録した。患者役は忍足特別編集委員。ビワの袋掛けをしていて脚立から落ち、腰を打って診察を受ける場面が急きょ設定された。 患者役が「ふうろかいをしててぉ、脚立が倒れておっけっちゃったぁだよ。おんもり腰を打ってぉ、はぁやあべねえだよ」と訴えると、医師役は言葉が通じないで驚く。痛み具合や患部の具体的説明も房州弁で、医師役を困らせた。メンバーは房州弁辞典発刊のいきさつも動画で撮影し、「房州弁辞典誕生秘話」にし、パワーポイントにまとめた。理解が難しい房州弁には字幕をつけ、理解度を高める工夫をした。 メンバーの出身地は全国それぞれで、クリニックで初めて房州弁に接した人も多い。房州弁を頻繁に使うのは50~80代で、世代的にも差が大きい。メンバーは房州の内陸側と海側では発音のトーンも違うこともまとめ、独自に短めの「房州弁検定」作成にも挑んだ。館山市内の商店などでも聞き取りをし、広く房州弁の使い手と接した。 成果は医療機関内で発表され、高い評価を受けたという。プロジェクトのメンバーは、こうした成果に対し、「今後の診療に役立てたい。(方言理解に)対応してくれた地域の人に感謝したい」と述べる。 対応に当たった忍足特別編集委員は、自身が入院中に見聞きした患者側と医療側の言語上の格差を感じていたことから、「こうした若手医療人の動きが、房州の医療・介護現場に広がれば、いい地域社会になっていくと信じる」と話した。