太平洋戦争末期の集団学童疎開から今年で８０年を迎える。東京都台東区の児童を受け入れた会津若松市の東山温泉では新型コロナ禍を経て５年ぶりに東山盆踊りが復活する。市と台東区との歴史的な結び付きと平和の尊さを後世に語り継ぐとともに、さらなる相互交流を図る契機となるよう願う。 　東山温泉に疎開したのは台東区の西町、根岸、谷中などの国民学校の女子児童約１４００人で、１９４４（昭和１９）年８月２３日に受け入れが始まり、翌年４月ごろまで続いた。東山盆踊りは、東京の親元を離れた児童を励まそうと、温泉地の湯川にやぐらを組んで開催したのが始まりとされ、今年で８０周年を迎える。まさに疎開の歴史と重なる。 　台東区は「盆踊りの再開に少しでも協力したい」と、ポスターやチラシを区内の観光・生涯学習施設に張り出して盆踊りのＰＲに一役買っている。疎開児童を多く受け入れた縁で台東区と友好姉妹都市となっている会津美里町の観光協会関係者の橋渡しで実現した。姉妹都市締結うんぬんは別にして、歴史的なつながりを深める上で、会津若松市も台東区との相互交流を積極的に推進すべきだ。

　東山温泉観光協会は、区民への周知の中で疎開児童だった人が分かれば、盆踊りに招待する旨を台東区に伝えた。疎開児童は当時９歳から１３歳で、存命なら９０歳前後になる。疎開の記憶が風化する中、実現すれば、当時の東山温泉や疎開生活の様子について話をうかがえる貴重な機会になるだろう。 　台東区の小学校に残る資料も興味深い。昨年創立１５０周年を迎えた根岸小の記念誌には東山温泉に身を寄せた児童の写真が収められている。会津若松市では、疎開児童の写真は東山温泉向瀧などに残るのみで数少なく、当時を知る貴重な資料と言える。今後は学校と連携し、資料の収集や保存、活用を進めていく必要がある。 　８月１日から４日まで開かれる盆踊りには、根岸小の小西祐一校長ら学校関係者も参加する予定だ。８０年の節目に育まれた交流の芽を一過性で終わらせてはならない。将来的には台東区の多くの区民に盆踊りに参加してもらえるような継続的な交流に結び付けてほしい。（紺野正人）