<高校サッカー>北陸決勝を制した富山第一の伝統
■特異なキャリア イングランド留学経験も 長峰前監督を引き継いだ、この大塚監督はユニークな人物だ。1964年11月3日、富山県富山市生まれ。地元の名士の子息であり、富山第一、法政大を経て古河電工(現・ジェフユナイテッド千葉)でプレーした。奥寺康彦、岡田武史といった日本サッカー史に名を刻む選手たちと一緒に戦っていたわけだ。引退後は、イングランドのウエスト・ハムにコーチ留学。UEFAの最上級ライセンスを取得し、指導者の道へと進んだ。地元のアローズ北陸で選手兼任のコーチを務め、富山国体で女子チームを率い、遠くアルビレックス新潟シンガポールで監督になるなど、ちょっと変わったキャリアを積み上げてきた。 イングランドへの思いは深かったようで、今大会でチームの主将を務めた次男の翔を含めた二人の息子は共にイングランド留学経験を持つ。今年度の春休みにも、3年生全員を率いてイングランド遠征を敢行。A、Bの2チームに分かれて現地でレディング、ウエスト・ハムといったプレミアリーグのアカデミーチームなどとゲームを重ねた。 「かなりやれた。あれは自信になった」(DF竹澤昂樹)、「全然通用しなかった」(MF細木数人)などと選手の感想はバラバラだったが、「上には上がいるという意識を持てるようになった」(細木)と、モチベーションを高め、サッカーを変えていく切っ掛けとはなったのは確かなようだ。「現地のコーチにも指導してもらって、ウチのサッカーはワンパターン過ぎたと思えた。ディフェンスラインからつないで速い縦パスでスイッチを入れていく形とか、新しいやり方をやっていく切っ掛けになった」と細木は語る。 ■実質的なプロコーチとして指導 教職のかたわらで部活動を指導するのではなく、サッカー部に集中して指導を行う実質的なプロコーチとして指導に当たった大塚監督。工夫を凝らしたセットプレーや、試合展開に応じた柔軟なシステム変更を仕込んでいる辺りは、まさにプロの仕事だった。優勝会見でも「私は教師ではなく、監督」と強調していたように一人のプロコーチとしてのプライドを持って日々の指導に当たってきた成果だと言えるだろう。 長峰前監督が36年をかけて築いた基盤に、その教え子であるプロコーチの大塚監督がエッセンスを加えたチームが、現在の富山第一。今回の高校サッカー選手権は、その一つの集大成が見えた大会だった。 (文責・川端暁彦/スポーツライター、編集者)