忘れ柴田✕PK shampooヤマト。スプリットツアーを前に酒クズ同士のトークバトルを開催
そこに留まってるヤツらに「逃げた」って言われるとすげぇムカつく。俺は前に進んでんだから
ーー柴田の場合、ステージで爆発しててもそういう自分をどこかで客観視してるところもあり。 ヤマト「俺らの場合、それができてなくて」 柴田「ドキュメンタリーだからね」 ヤマト「a flood of circleと名古屋で2マンした時、俺らが50分ぐらい押しちゃって。しかもMCだけで(笑)」 柴田「50分!(笑)」 ヤマト「もちろんステージ袖から『巻け!』って言われてるんですけど、それでもやっちゃうんですよね」 ーー止められない? ヤマト「止められないというか、止まれと言われたら止まりたくないし、止まるなと言われたらむしろ止まりたくなっちゃう、みたいな。最初は自主でやってたからそれで怒られても自分ひとりが謝ればよかったし、そういう俺を止める人が誰もいなかった。けど最近はレーベルにも所属したし、そこらへんは大人というか、プロとしてみたいな意識があったほうがいいのかなって」 柴田「でも一方で常在戦場感があるじゃないですか(笑)。つねに戦場、みたいな。俺には手に入らないものだし、やっぱり憧れますよね。カッコいい」 ーー音楽面では共通部分があると思います。実は忘れもPKもロマンチックで美しい感情に向かっているというか。 柴田「そう、ロマンチックなんだよね。歌詞もリアリティのあることをあえて言っていない気がする」 ヤマト「そうですね。ある程度は日記として書いてはいるんですけど、絵本にしてる感じ」 柴田「そこはドキュメンタリーじゃなくて、もうちょっといろんな想像ができるというか。言いたいことはちゃんとベースにあるんだけど、そのまんまは書かない」 ヤマト「宮沢賢治的というか」 ーー自分で言いますか(笑)。 柴田「でも京都の歌もそんな感じ。逆に俺のほうがもろ日記って感じ。そのまんま。そこも俺がこの人に憧れるところですね。ところでヤマトくんは歌の練習とかしてるの?」 ヤマト「まったくしてないです。もちろん練習はしたほうがいいとは思いつつ、練習をしないことによってかかるブーストってあるじゃないですか。例えば毎日ギターの練習しちゃうと、〈今日、しっかり練習したわ〉って安心しちゃうんですよ」 ーーそこは柴田と対照的ですね。 柴田「俺はまさに安心したくて練習してるの。不安だから練習する。で、もっと歌が上手くなって、もっとヤバい歌を唄いたい、みたいな」 ヤマト「僕はむしろその不安を取りこぼしたくないんですよ。不安を不安として扱いたい」 ーー不安を自分のモチベーションにしていると? ヤマト「だって不安みたいなものを音楽にしようとしてるんだから、それを何かで発散させたらもったいないじゃないですか」 柴田「練習で発散はされないよ」 ヤマト「なんか僕の場合、それで散っちゃいそうな気がするんですよ。単なる言い訳やろって言われたらそうなんですけど、練習するとか毎日ちょっとずつ歌詞を書いてみるとか、そういうことをすると、自分の中の純度が下がる気がするんです。唄う自分として。それやるとただの歌手になっちゃいそうで」 柴田「なるほどね」 ヤマト「たぶん言い訳で言ってるだけですけど(笑)。でも、そういうことを自覚するようになったのは最近で。メジャーでやるってなって『最初はフルアルバムを作れ』みたいなことを言われてたんですけど『できない。やだ』って言って、結果的に再録みたいな2曲と、1曲がセルフオマージュ、完全な新曲が1曲、しかもそれが40秒ぐらいしかないっていう作品になったんですけど」 ーー「再定義E.P」ですね。 ヤマト「アレンジも歌詞もまだの状態で山奥のレコーディングスタジオにぶち込まれて、1週間ぐらいで作ったんですけど、そういうギリギリまで追い込まれた状態で書くことで純度が上がるというか」 柴田「やっぱりドキュメンタリーだわ」 ーー一方で柴田は打ち上げより次の日の歌の練習を優先する人ですから。 柴田「それはね、練習しまくってる人の歌のすごさを俺は知ってるから。エレカシの宮本さんとかあんなに歌が上手い人なのに、めちゃめちゃ練習してるから。で、俺はその人の歌で感動してるの。だったらその人以上に俺は練習しないとダメじゃんって思うんだよね」 ーー歌のために走り込んだりもしてるし。 柴田「肺活量が上がると声が出るし、声量も上がるから。そうやってどんどん上げてヤベぇところに自分は行きたいの。ヤマトくんみたいなやり方にも憧れる。美しいなって思うよ。でも俺にはできないしやりたくもないから、1時間半とか走り込む」 ヤマト「走るって聞いて思い出したんですけど、そういえば半年前にエニタイムフィットネスに入ったんですよ」 ーー24時間ジム? 柴田「なんだよ! 今までの話で一番ブレてるじゃん!(笑)」 ヤマト「家の電気が止まった時に給湯器が使えなくなったんで、シャワーを浴びるためだけに2回ぐらい行ったぐらいで。そのあとチョコザップに入り直したんですけど、そっちは1回も行ってない(笑)」 ーーなんで入ろうと思ったの? ヤマト「ちょっと太ってきたんですよ。パンクスとしてはヤバいなと思って」 柴田「ジムなんか行かないで走ればいいじゃん」 ヤマト「絶対に走らない。すぐタクシーに乗っちゃうんで(笑)」 ーーお互い自分に足りないものを埋めようとしてるのは一緒だと。 柴田「俺は俺でヤマトくんみたいに毎日呑もうとは思わないし。だからまぁいろんな戦い方があるってことで。その中でもヤマトくんの戦い方は美しいと思います」 ヤマト「走るとか歌の練習するっていうアプローチと比べちゃうのもアレなんですけど、僕の場合はこうやって呑むのもそうやし、そこで起きた事件とかトラブルに飛び込んでいったり拾っていくことが自分なりのアプローチというか」 柴田「方法は違うけど覚悟は一緒だっていう。しかもリスクを背負ってるし」 ヤマト「カッコいい言い方すると、街に出てってなんか面白いことないかなって探してるんですよ。それで昔はボコボコにされることもあったし。例えば怖いバンドの打ち上げに勝手に入ってケータリング全部食う、みたいな(笑)」 ーーはははは! ヤマト「前のバンドですけどね。まだなんもわかってなかったんで、そういうのがパンクだってなんとなく思ってやってたんですけど」 ーー要は、自分をどう奮起させるか、みたいなことですよね。 ヤマト「そうですね。結局その方法が文化系なのか体育会系なのかっていう」 ーーどっちが優れてるとかそういうことじゃなくて。 柴田「そう。そうなの」 ーーで、そんな酒クズバンドが一緒にツアーを廻るわけですが。 柴田「俺は逃げないよ! 実は俺、あの動画で『逃げた』って言われて腹立って。逃げてねぇから!」 ヤマト「逃げたじゃないですか。遁走してた」 柴田「ちげぇよ。あれは前に進んだんだよ!」 ーーお、エンジンがかかってきました(笑)。 柴田「明日に向かって走っただけで、そこに留まってるヤツらに『逃げた』って言われるとすげぇムカつく。俺は前に進んでんだから」 ヤマト「世の中に〈これが前だ〉っていう方向はないんですよ。横だろうがちょっと逸れてようが後ろだろうが、本気で走ってるならそれでいいじゃないすか」 柴田「だけど『ただ敗走した』って言われて、しかも『下人』とまで言われ」 ヤマト「や、下人ですよ(笑)」 柴田「下人は……めっちゃ面白い(笑)」 ーーじゃあ対談はこのへんにして次の店へ。 ヤマト「逃げないでくださいよ」 柴田「俺は逃げてない! 前に進んでるだけ!」
樋口靖幸(音楽と人)