[MOM4748]共愛学園MF中野一楓(3年)_福井から群馬へやってきたアタッカーが狙い通りの「裏抜け2発」で悲願達成のヒーローに!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [6.16 インターハイ群馬県予選決勝 共愛学園高 5-1 常磐高 正田醤油スタジアム群馬] 【写真】「マジで美人」「可愛すぎてカード出る」現地観戦した女子アナに称賛集まる 福井から単身で群馬へやってきて3年目。強いチームを倒したいと、全国大会に出たいと、願い続けてきた目標がとうとう叶ってしまった。でも、この高校を選んだ決断を成功にするための努力は積み重ねてきたのだから、大事な試合で活躍するのも決して偶然ではない。 「夢みたいで、信じられない感じでした。自分はここで優勝するために福井から来たので、それを果たせたというのはとても嬉しいですし、今まであまりゴールを決められてこなかったので、この舞台で決められて、それも本当に嬉しい気持ちでいっぱいです」。 創部23年目で初の全国切符を勝ち獲った共愛学園高(群馬)のナンバー7。MF中野一楓(3年=武生FCジュニアユース出身)は決勝で叩き出した2つのゴールで、チームの悲願達成に大きく貢献してみせた。 1つ目の目標が叶ったのは準決勝だった。全国的な強豪の前橋育英高と対峙した一戦。スタメンで出場した中野は攻守に奮闘し、延長後半9分までプレー。最後は足が攣って交代したものの、PK戦の末に引き寄せた勝利の一翼を力強く担う。 「厳しいゲームでしたし、自分は足を攣ってしまって途中で代わったので、PK戦を見ながら本当に祈っていました。もともと入学する時に『前橋育英みたいな強いチームを倒したい』と思っていたので、それが果たせて嬉しかったです」。みんなで成し遂げたジャイアントキリングが、とにかく嬉しかった。 2つ目の目標を叶えるための決勝。常磐高と激突する重要なゲームにも、中野は左サイドハーフとしてスタメン起用されると、この大舞台で眩い輝きを放つ。 前半28分。MF栁澤雅延(3年)がボールを持った瞬間、2人のイメージは共有される。「栁澤くんが前向きで持った時に、自分に付いていたマークの子がボールウォッチャーになっていたので、『裏に抜けられる』と思って全力で走ったら、そこに良いパスを出してくれました」。 GKとの1対1。瞬時に駆け引きが頭を巡る。「キーパーを見て、ちょっとニアに蹴る感じを出して、ファーに打ったので、たぶんキーパーもタイミングをズラされたかなって。ちょっとキーパーに当たってしまったんですけど、決められたので良かったです」。中野が沈めた貴重な先制点は、自身今大会初ゴール。チームメイトも歓喜の輪を作る。 前半36分。MF能登悠(3年)がドリブルを始めた瞬間、2人のイメージは共有される。「1点目と同じように自分のマークがボールウォッチャーになっていて、能登くんとは意思の疎通が取れていて、パスを出すってわかって、裏に抜けたら本当に触るだけというボールを出してくれたので、自分はそこに走って触るだけでした」。 飛び出してきたGKより一瞬早く、右足で優しくコースへ流し込んだボールは、右スミのゴールネットへゆっくりと吸い込まれていく。「練習から奈良(章弘)監督に『裏抜けはずっと意識しておけ』と言われていて、今日もずっと裏抜けを頭の中に置いていたので、それがうまく実りました」。同じような形で奪った2得点が、やや硬かったチームに大きな勇気をもたらす。 後半6分には“3点目”のチャンスもあった。ここも能登からのパスでディフェンスラインの裏に抜け出し、右足一閃。ボールはゴールネットへ到達したものの、副審のフラッグが上がり、オフサイドの判定。「『オフサイドかな?』と思いながら、とりあえず振り抜いたらオフサイドだったんですけど、せっかくならハットトリックしたかったですね」。少しだけ滲んだ本音が高校生らしい。 結果的に共愛学園は後半にもゴールを積み重ね、5-1で快勝。6度目の群馬決勝にして初めての県制覇を果たし、やはり初めての全国切符も獲得。「自分たちの代で育英も倒せましたし、県の優勝もできたので、本当に嬉しいです」。勝利の主役をさらった中野にも、チームメイトにも、最高の笑顔が弾けた。 中学時代にプレーしていたのは、福井の武生FCジュニアユース。関東の高校を中心に進路を考えていく過程で、あるチームの試合が強く印象に残る。「自分が中学生の時に、前橋商業との決勝まで行った代の試合を見ていて、『面白いサッカーだな。共愛に入りたいな』と思ったんです」。 2020年度の高校選手権予選。前橋商高との決勝は終盤の2失点で逆転負けを喫したものの、この試合をきっかけに共愛学園への進学を志した選手たちは少なくない。「僕は勉強もちゃんとやりたかったので、文武両道ができて、寮もあって、環境も良いということで、共愛に決めました」という中野もその流れを汲む1人だ。 だからこそ、今大会の準々決勝には不思議な運命を感じざるを得ない。前橋商相手に1点のリードを許しながら、後半アディショナルタイムからの2ゴールで奇跡的な逆転勝利。「僕が見ていた代は前商に勝てなかったので、その悔しさも張らせたのかなという嬉しさもあります」と中野。悔しい敗戦を味わってきた先輩たちの涙も糧にして、共愛学園はようやくここまでたどり着いたのだ。 中野は1か月後に迫る全国大会でのプレーに、想いを馳せる。「全国では技術的に他のチームの方が上手いと思うので、共愛はチーム一体となって、みんなで鼓舞し合って、今日みたいな形で熱く戦っていけたらなと思います」。 この高校に入ってきた時に掲げた2つの目標は、一気に叶ってしまった。ここから先は未知の世界。ただ、もう思い切り楽しむしかない。共愛学園の攻撃を引っ張る俊敏なアタッカー。中野一楓がチームメイトと紡ぐ全国での一挙手一投足は、このチームの新たな歴史を確実に形作っていく。 (取材・文 土屋雅史)