村上春樹「今の時代にも十分通用する音楽。びりびりと痺れました」と唸った楽曲とは? 自身のラジオ番組『村上RADIO』でソウル・インストルメンタル・グループ特集
◆Booker T. & The MG's「Hip Hug-Her」
今夜は1960年代のソウル・インストルメンタル・グループの特集です。 まずはそのブッカー・T& The MG'sからいきます。このバンドはいわゆるインターレイシャル・バンド、つまり白人と黒人の混合バンドです。1960年代の南部ではきわめて珍しいケースで、他にはこういう例は見当たりません。 4人編成で、キーボードのブッカーTとドラムズのアル・ジャクソンJr.は黒人、ギターのスティーヴ・クロッパーとベースのドナルド・ダック・ダンは白人です。当時の南部はセグレゲーション(人種分離)が厳しかったし、人種混合バンドは双方の側から冷ややかな目で見られ、やりにくいことが多かったようですが、彼らが長期間にわたって同じメンバーでバンドを維持し、目覚ましい成果をあげることができたのは、4人が音楽的理解によって密接に結ばれていたからでしょうね。 1967年のヒット曲「ヒップ・ハグ・ハー」を聴いて下さい。 彼らのオリジナル曲で、全米ヒット・チャートの35位を記録しています。理屈抜きでご機嫌、快調なリズムです。
◆Booker T. & The MG's「Fuquawi」
ブッカー・T&ザ・MG’sは4人しかメンバーがいないシンプルな構成なんだけど、単調さをほとんど感じさせません。一本調子になるということがないんです。一曲一曲それぞれにそれぞれの工夫があります。彼らが多彩なサウンドを作り出すことに心を配ったということが、その理由としてあげられると思います。 当時のオルガンというと、ばしばし派手に弾きまくるスタイルが多かったんですが、ブッカーTは、一台のオルガンから実に巧妙に、さまざまな音を引き出していきます。そしてスティーヴ・クロッパーはまさにギターの魔術師です。ブッカーTはスティーヴ・クロッパーについてこのように語っています。 「スティーヴはものすごくサウンドにこだわる男なんだ。彼は1本のテレキャスから、セッティングを変更することなく、実にさまざまな音を引き出すことができる。指使いを変え、ピックを変え、アンプを替えるだけでね。スティーヴと一緒に演奏していて何より楽しいのは、彼が僕以外の唯一の独奏楽器奏者でありながら、まるでビッグ・グループで演奏しているような気持ちにさせられることだね」 1971年に発表された、彼らの最後のアルバム『メルティング・ポット』から「フクゥワイ」という曲を聴いてください。
<収録中のつぶやき>
このバンドは生で聴くと、ドナルド・ダック・ダンのベースがいかにすごいかということがよくわかるんです。レコードだとちょっとわかりにくいけど、生で聴くとすごくよくわかる。 (TOKYO FM「村上RADIO~ソウル・インストルメンタル・グループ~」2024年8月25日(日)放送より)